Ron Howard監督作品 A Beautiful Mind
ご存じアカデミー賞4部門制覇(作品賞・監督賞他)という偉業を成し遂げた話題作である。以下の文章には、ネタ晴らしを含むので、ご覧になっていない方は読まない方がよろしいかと存じます、ということをお断りして始める。
物語は単純明快。精神分裂症(今後は、「統合失調症」と呼ばれることになるみたいです。欧州語だと、schizophrenia。映画の中ではこう呼ばれていて、字幕は「分裂病」だったと思います。)を患う天才的な数学者John Forbes Nash Jr.(実在します。てなわけで、同教授の公式サイトもちゃんと存在しています。造りは、かなり凄いですよ。)が、その疾病に苦しみながらも、妻や友人達の献身的な努力の末、その業績の一つである「非協力ゲーム理論における均衡分析」(同映画の公式サイトより。面倒なので、以下の記述では字幕にあわせて「均衡理論」とする。)の提唱によってノーベル経済学賞を受賞するまでを描く。
まあ、本作品がハリウッド映画ということもあって(Dream Works社製作)、そういうくそ真面目な評伝的作品だとは全く思っていなかったので別段驚かなかったのだが、この映画は実のところあからさまなまでにエンターテインメント志向の作品であり、もっと言えば冷戦下の情報戦を描いたサスペンス映画なのであり、更にもっと言ってしまえば、「なんだこれ、まるで The Sixth Sense みたいやん。」と思わず苦笑してしまうようなホラー映画なのである。
ハリウッド映画なのだし、商業的な成功を最大の目的としているのだから(この辺は、映画の中で描かれる「均衡理論」と矛盾しているのだが…。)、これはこれで良しとしよう。特に退屈することもなく、そこそこ楽しめたのは事実である。
問題なのは、第一にはこの映画の肝心要(かなめ)であるはずの「均衡理論」についての説明が、余りにも通俗的で、陳腐極まりなく(ハリウッド映画お得意の「ブロンド美女」を取り合う男性集団、という設定で語られる。)、これじゃあNash博士が可哀相なこと、もう一つは、精神分裂症なり統合失調症なりの症状が、これまた余りにも恐らくは実状を無視した形で、単にこの映画をサスペンス・ホラー映画として売り出して儲けるために「脚色」されたものに過ぎず、その点には個人的に多大な不快感を覚えてしまった、という辺りである。
もう一つ言えば、Nash役であるRussell Croweの腕が数学者にしては太すぎる、というのも問題なのだけれど、これは彼の「幻覚」なのだ、というオチを付けて、ほとんどボロクソの短評を終わることにしよう。以上。(2002/04/09)