Jean-Pierre Jeunet監督作品 Alien Resurrection
実は余り気が進まなかったのだが、監督がDelicatessenLa cite des enfents perdusの鬼才Jean-Pierre Jeunetだということもあり、私としては珍しく公開からかなり早い時期に鑑賞する事になった。まあ、それなりに面白い作品なのではないかと思う。『ジュラシック・パーク』と余り変わらない一直線のジェットコースター・ムービーなのだけれど、意匠や美術の執拗とも言える位の懲りようは、この監督の前2作を観てしまっているものにはそれなりに興味をそそるものであった。ただし、美術監督はJeunet作品ではおなじみのMiljen Kljakovic "Kreka"(ちなみに彼はE.Kusturica監督の大傑作Undergroundの美術監督を担当した人である。)ではなく、Nigel Phelpsという人である。また、人間とエイリアンの境界を生きる事になってしまったSigourney Weaver演ずるところのRipleyや、これまた人間と機械の境界を生きているWinona Ryder演ずるところのCallの二人の存在によって示されているテーマ群は、SFにおいてはこれまでもさんざん扱われてきたクローンを含めた生命操作技術の是非だの、思考とは何か、自我とは何かというP.K.Dick的な存在論を繰り返しているに過ぎないような、ややありきたりで手垢の付いたものとはいえ、それなりに色々なことを考えさせてくれる。後者については余り深く掘り下げられているとは言えないので置いておくとして、前者については、「利己的な遺伝子」理論に従うなら自分の「孫」であるエイリアン達を地球に解き放つのが筋なんだろうけれど、その辺を「人間」的な「理性」によって抑制して、人間にとっての最適な選択をするっていうのは、実は「理性」の持つ二面性を図らずも体現してしまったのではないかと思い、興味深いものであった。すなわちそれは、ある種の利他性を個人個人にもたらすことによって、全体としての平等性みたいなものを実現するのに役立つ基本的には素晴らしいものなのだけれど、その反面、マジョリティがマイノリティを抑圧したり、場合によってはこの作品に見られるような絶滅戦略を採ることを正当化するよすがともなってしまうものなのである。まあ、それは措くとして、実は本作品でRipleyがとった行動は、実は彼女の持つ遺伝子にとっては最適なものなのかも知れないということも付け加えておきたい。そうだとすると、続編もあり、ということになる訳だ。前々からWilliam Gibsonが本シリーズの第何作目だかの脚本を書いている、という噂が流れていたのだけれど、いよいよ舞台を地球に移して、お目見え、という運びになるのかも知れない。期待したいと思う。それに加えて、前作でキリスト的な死を遂げたRipleyが、「三日後」ではないにしても200年後に甦り、地球に降り立った、というのは、『ヨハネ黙示録』「第20章」の文脈で言えばこの後1,000年ないしはそれ以上の期間にわたり、無敵のRipleyとその仲間達(本作品でRipleyと同類意識を持つに至ったCallを含む「ロボット(作品内での呼称に従う。)」達や、あるいはRipleyの子孫達ということになるのかな。)が世界を支配する、というようなことになるのかな、などと考えてしまった。そう考えると、Ripleyが女性であって、さらにはこのシリーズでは彼女の「母性」が幾度となく強調されてきたことを考えるにつけ、いわゆるフェミニスト神学の影響を感じざるを得ないのである。付け加えると、Callのハッキングによって破壊されたことになるらしい本作品の舞台である宇宙船の艦載コンピュータがFather(しかし、安易なネーミングだね。)と名付けられていることも、それを裏付ける事になるのではないかと思う。CallとRipleyの間に芽生えたらしい若干レズビアン的な同類意識も同じくそういう流れで出てきたものなのかも知れない。まあ、「父性より母性」式、あるいは「男はいらない」式の、ちょっとばかし古くさいフェミニズムではあるのだけれど…。
さて、やや残念だったのは、同監督の前2作に登場したDominique PinonとRon Perlman(ちなみに、後者はJ.J.Annaud監督のThe Name of Roseにも出演していた人である。)という二人の「怪優」の起用の意味がいまいち分からなかった事である。もう少し重要な役柄を与えても良かったように思うのだけれど、なんかぱっとしない役に終始している。ついでに細かいことを言うと、冒頭のナイフ投げだの、最終的に主人公達を救う事になる血の一滴だの、クローンを巡る一連の挿話だのというのは実は同監督の自作のパロディなのである。余り注意深く観ていなかったのだけれど、他にも「遊び」を入れているかも知れない。こういう部分にはJeunet監督の真骨頂であるコミカルな側面も垣間見えていて、なかなかに楽しませてくれたのだけれど、全体としてはくそ真面目な作品で、もっと遊ばせてあげても良かったのでは、などと考えてしまった。プロデューサーの意向なので仕方がないのかも知れないけれど。なお、付け加えると、これまでのAlianシリーズ3作の監督達が揃いも揃ってその後大活躍をするに至った経緯は御承知と思うが、それを考えるとJeunet監督の今後が本当に楽しみである。そんなところで。(1998/05/09。05/11に若干加筆。)