Eric Rochant監督作品 Anna Oz
シネ・ヴィヴァン六本木で上映されている本作品はフランス・イタリア・スイスの合作映画で、主演はシャルロット・ゲンズブールである。話自体は至って単純で、基本的には夢との戦いである。どうやら主人公である現実のアンナは殺人現場を見てしまったらしく、これがトラウマとなって、その事実が抑圧・忘却され、夢という形での解放がなされるかと思いきや、夢の中のアンナが自己意識に目覚め、自己の永続のために現実のアンナを死地に陥れようと画策することになる。
殺害の現場で被害者の女性の眼球がくりぬかれることが、夢の中では絵画を額縁から切り取ることや、眼球をヤミで売買する組織が暗躍しているらしいこと、などという形に置き換えられて現れる。夢の中の世界は水の都ヴェネチアである。日本でも古くから文学・神話上の主要モチーフとなってきた水と鏡の関係を考えるならば、現実のアンナが鏡の中の自分の像に向かって唾を吐きかけるシーンなどを考え合わせてみても面白いだろう。
全編にラテン系(ブラジリアンなのかカリビアンなのか、それともその他なのかは私には分からない。)の音楽が流れる。現実のアンナの恋人が中南米の出身らしく、そこから来たものらしい。最後の場面は「黄色い煉瓦道」を思わせるヴェネチアの石畳を夢の中のアンナとこの現実のアンナの恋人が歩いていくところなのだが、要するに現実のアンナは植物状態に陥ってしまっており、枕元でタマヨバイ(そんな風習がヨーロッパにあるかどうかは知らないけれど。)をする恋人がアンナを救うべく夢の中に現れた、と一応解釈しておこう。まだまだ、「二人」の戦いは続きそうである。(1997/8/8)