Mamoru Oshii監督作品 Avalon
日本国内のみならず、国際的に評価の高い映像作家・押井守監督の最新作である。舞台は近未来、非合法のヴァーチュアル・リアリティを駆使したネット・RPGゲームAvalonに隠された最終ステージを巡って、物語は展開する。
上映期間中に劇場においてなり、恐らくは近いうちに行なわれるだろうヴィデオ化後なりにご覧になればお分かりになると思うのだが、はっきり言って、在り来たりな物語。この手のヴァーチュアル・リアリティものは前にも述べた通り飽和状態で、そろそろ新境地を開くような作品の出現を待ち望んでいるのだが、正直申してはぐらかされた。基本的な図式は、ネット内に現われる「ゴースト」が鍵を握る押井監督の前作『Ghost in the Shell 攻殻機動隊 』と全く変わらない。それなりに斬新な映像や美術、そして川井憲次による荘重な音楽その他により、確かに一つの世界は見事に構成されていると思うのだが(実は、私のような鑑賞者はそれだけで充分楽しめてしまうのであった。)、いかんせん物語が単線的で、ヒネリが効いていない。ちなみに、本作でも、「ゴースト」はキー・キャラクタ(いわゆる「ラスボス」ですね。)登場する。
興趣をそそられたのは、出演者が全てポーランド人、台詞もポーランド語、スタッフも大部分がポーランド人、ロケ地もポーランド、登場する戦車や軍用ヘリコプターもポーランド軍のものということ。ポーランドでも上映されることになると思うのだけれど、基本的にはその他の国々の人々に向けられたこの作品が、はじめから字幕を読むことを鑑賞者に要求している点も映画のエクリチュールとして斬新かつ画期的なことであると思う。加えて、既存のRPGにも見られるように、ゲーム内世界というのは基本的に無国籍的であったり、多国籍的であったり、異国籍的であったりするのだけれど、実はこの物語の全体がゲーム内のこと、ともとれるわけで、ポーランド人ではないこの作品を観る大部分の鑑賞者に、そういう雰囲気を味わわせるのに、一役も二役も買っている。
とは言え、これは単に予算の関係なのかも知れない。ポーランドの経済状況は西欧やアメリカほど芳しくはないはずで、さぞや人件費も安かったことだろう。どうなんでしょう?尚、予算に関して付け加えると、本作の触れ込みは、「ハリウッドでは、この映像は造れない。」であるのだけれど、それは当り前。ハリウッドでこれを造るとすれば、10倍位の予算で、全編にCG処理が施せるだろう。恐らくはかなりの低予算で造られた本作品は、フラッシュ・バックと言えば聞こえはいいけれど、結局のところ一番お金のかかっただろう場面が繰り返し用いられていたりして、いかにもセコイ感じがした。主人公・アッシュが最後に到達する最終ステージにしても、それが究極のリアリティを追求したものである、ということにしてしまい、要するに普通にワルシャワの町並みを何の処理も施さずに撮影しているのは、うまい、というか、こすい、というか、どちらにしても、予算の少なさを如実に示すものであることは間違いなかろう。
最後に一言。本作品では最終ステージまでの道のりはほとんどモノトーンに近いセピア色がかった画面で描かれていて、最終ステージはヴィヴィッドなリアル・カラーで描かれるのだけれど、これは明らかにWim Wenders監督の名作Der Himmel uber(uはウムラオト) Berlin(邦題『ベルリン・天使の詩』)を意識したものであろう。そう、私はこの同じく戦争が基本モティーフとなっている作品を、『ワルシャワ・天使の詩』として鑑賞したのであった。
いつもの通り、蛇足を一発かまして終わりにしよう。劇中で主人公が飼っている犬が消息不明になるのだけれど、一体どこへ行ってしまったんだろう?誰か分かる人は教えて欲しい。(2001/02/10)