Michael Moore監督作品 Bowling for Columbine
予告編も恵比寿の映画館で観てしまったし、昨年のカンヌ国際映画祭第55周年記念特別賞だの本年の米国アカデミー賞長編ドキュメンタリ部門を受賞したことがそれこそメディアを賑わしたので中身は大体見当がついていたのだが、余りのロング・ランにつきこれは観ておかないとまずいかなと思い、念のため舞浜の映画館で鑑賞。さすがに2時間の長さを持ち、更に言うと映像作品ということも手伝って物凄い密度を持つこのドキュメンタリ・フィルムは、各種の評論・紹介から漏れ落ちる内容を多分に含むので、一応全編きちんと観た方がよろしいかと思った次第。
この作品自体がメディア・ジャーナリズム批判を多々含むので、当然このドキュメンタリもまた映画というメディアという形態をとって提供されるものでありかつジャーナリスティックな作品であることからここで描かれている事柄、表示された数字等々が完全に信頼可能なのものかどうかは吟味しなければならないし、相当に重要で作品中最もインパクトを持つものでさえある各種統計の出所が明示されていないのは、そういうことに極度なまでにこだわるアカデミズムの場に身を置いている私のような者ものからすれば大問題なのだが、まあそういう細かいことはガタガタ言ってられないくらい良く出来たドキュメンタリなので目をつぶることにしよう。ちなみに、一応本映画の公式サイトだの、Moore監督の公式サイトあたりにそうした情報があるのかも知れないことは述べておこう。
前置きが長くなりすぎたが、肝心の内容はというと、アメリカ合州国がコソヴォにおいて最大規模の空爆を行なった1999年4月20日、コロラド州リトルトンのコロンバイン高校において、同校の生徒でもある2人の少年が銃を乱射、12人の生徒と教師1名を射殺したのち、自殺するという事件が発生(後に「トレンチ・コート・マフィア事件」と呼ばれることになる。)。この事件に関し、各種メディアは暴力描写を含む映画・ゲームの影響、そしてまた二人が好んで聴いていてたロック・ミュージシャン Marilyn Manson の創り出した「暴力的」かつ「反社会的」な音楽等々にその責がある、などと分析。タイトルになっているボウリングとは、この事件を起こした少年2名が犯行前に興じていたものなのだが、監督のM.Mooreは各種メディアの主張について、「何でボウリングは非難されないの?」と一笑に付しつつ、同時にまたメディアがこの事件の一時間前に行なわれたコソボ空爆との関わりについて全く何も語らないことに対して痛烈な非難を浴びせる。
上に記したことは、本作品のほんのさわりに過ぎず、同監督は上記トレンチ・コート・マフィア事件のようなことが実に実に頻繁に起きる銃社会アメリカ、そしてまた銃による死亡件数がべらぼうな数にのぼる銃犯罪社会アメリカが、何故にそうであるのか、そうなってしまったのか、ということについて様々な角度から検討を試みている。それは、例えば次のようなもの。
即ち、何年度の統計だか分からないのだが年間11,127人が銃によって死亡している(自殺含む?)アメリカ合州国のお隣であるCanada(「カナダ」ではなく、出来れば「キャナダ」と読んで下さい。)について言えば、約1,000万世帯からなるこの国には約700万丁の銃が出回っているにもかかわらず、年間165人が銃によって死亡しているに過ぎない。ところが、Canada人は暴力映画も暴力描写を含む映画も大好きであるらしい。人種的構成や貧困、西部開拓史・独立戦争等々が持つ暴力の歴史がアメリカという銃犯罪社会を産み出した、とも言われるけれど、Canadaにおける非白人率は13%と決して低くないし、失業率はアメリカ合州国の約2倍、歴史について言えばアメリカ合州国とそれほど大きく異なるものではない。では何故なのか。この点について同監督は、アメリカ合州国政府が行なっている貧困者に対する福祉政策の「貧困」さ、それをあざとく利用し巨額の利益を上げている大企業その他における雇用の在り方、アメリカ合州国のメディアにおける「黒人を悪魔に仕立て上げるかのような」非白人の扱い、といった事柄がその大きな要因であることを、実に説得力のある形で我々に示してくれる。
冒頭で描かれる、預金をするとライフルをくれる銀行で実際に講座を作ってライフルを貰うシーン、あるいはまたかの事件後各種メディア・宗教団体等々から非難を浴びまくった Marilyn Mansonや、当時全米ライフル協会長であった Charlton Heston 等々への直撃インタヴュウ、トレンチ・コート・マフィア事件の被害者達とともに事件に使われた銃弾を販売したKmartに乗り込みその販売を中止させるところまでもって行く、等々といった場面場面に現れているごとく、抜群の行動力と誰もが見習うべきジャーナリスト魂を持つ Michael Moore 氏には、取り敢えず惜しみない賞賛を送りたい、と同時にまた、次は何をやってくれるのか、という点にも興味が沸くのであった。以上。(2003/05/13)