Faye Wong FAYE WONG
北京出身の女性シンガー、フェイ・ウォン(王菲)の第15作。1989年(天安門事件の年だ。)に香港でデビュウしているわけだからとてつもないペースでのリリースである。ただ、今回は昨年の『浮躁』以来一年以上のブランクをおいたわけだが、その間女児を出産したり、かつての活動拠点であった香港が中国に「返還」されたり、その影響かどうかはよく分からないがEMIに移籍したりなんだのと、色々大変だったせいもあるのではないかと思う。(日本にも出産のためにしばらく休業する歌手がいるけれど、復帰は以外に早いのではないかと思う。私が思うにただのアイドルではないからね。)
サウンド的には、前作に見られた自作曲は一つもなく、前作のような徹底的した「歌謡」性の否定は行われていない。前作同様のCocteau Twins風の楽曲が幾つかと(そもそもCocteau Twinsのメンバーが参加している。)、テレサ・テン風、松田聖子風(!!!)の第13作Di Dar以前に見られた「歌謡」曲的な楽曲がそれぞれ幾つか、というような構成になっている。まあ、自身の名前をタイトルにしたことからも感じられる通り、本作はある意味で彼女のこれまで辿ってきた音楽遍歴を振り返るというような意図が込められているのではないかと思う。そのために前作のような挑戦的かつ野心的な面は余り出さずに、とても手堅い感じの作りになったのだろう。まあ、おそらくEMIというワールドワイドな大音楽企業の戦略によるものなのだから、こんなもんでしょう。まだフェイ・ウォンを聞いたことのない方にとっては格好の入門編になるのではないだろうか。要は、彼女の世界を相手にした音楽活動はいよいよこれから始まるのだ、という予感を感じ取った次第だ。多分半年ぐらいでリリースされてしまうのだろう次回作以降の展開が楽しみである。(1997/12/17)