ウォン・カーウァイ監督作品『ブエノスアイレス』
1997年カンヌ映画祭最優秀監督賞受賞作である。単館ロードショウとはいえ、既に約3ヶ月にわたるロングランとなった。原タイトルは良く読めなかったのだが、英語タイトルはHappy Togetherとなっていて、ラストでは同名の曲が流れる。なお、今回は面倒なので人名は全てカタカナ表記で済ませることにする。
正真正銘の同性愛映画であり、愛し合い、時には思いあまって対立しあう二人を演じるのはレスリー・チョンとトニー・レオンというおなじみの顔ぶれ。登場するのは二人の他にはチャンという名の「耳の極めて良い男」くらいのもので、徹底的なまでに二人の愛憎入り交じった感情の交錯に焦点を絞っている。本作の面白さは、同性愛をテーマにしながらも、世間の同性愛者への冷たい風当たりだの、カミングアウトだの、疫病との関係という偏見(そういう偏見はいまだに強い。)だのというややありきたりなモチーフを全く表に出さず、ひたすら二人の間の関係にのみ拘り尽くした点にあるのではないかと思う。
ただ、私自身が同性愛者でないせいもあるのかも知れないが、どうも主役の二人には感情移入できず、物語の単調さや劇場の暖かさも手伝ってやや眠くなってしまった。
それはともかくとして、香港が返還されたことで、ウォン・カーウァイはこんなに大胆な映画を中国国内ではもう作れないかも知れない。映画のラストでトニー・レオンは台北にいたけれど、何となくウォン自身の今後を暗示していたような気がする。次回作はどこで撮るのだろうか。(1997/12/28)