Jane Campion監督作品 holy smoke!
本作はあのJane Campion監督が1999年に発表した作品。主演は1997年に公開された恐らく未だに破られていないはずの興行成績世界記録を打ち立てたTITANICに出ていたKate Winslet。内容が内容だけに日本公開が遅れた(どういうわけか「18禁」です。性描写はごくあっさりしたものだが…。)、ということなのかも知れないが、それにしても遅れすぎな感じで、せっかく当時超メジャーだったはずの女優を配した作品なのだから、とっとと公開していればもう少しお客さんも入ったのではと思いつつ池袋のとある映画館にて鑑賞。
はなからどうでも良いことを述べると、本作は綴りはちょっと違うけれどCampion監督が1993年に創った映画The Pianoの主演女優であるHolly Hunterの名前、すなわちHollyと(発音は「ハリー」ですね。みんな、「ホリー」と読んでいるような…。)、同じく主演男優であり本作でも主役をこなしているHarvey Keitelが同じ頃に出ていた映画Smoke(1995)のタイトルをくっつけたような題を持つ。本当にどうでも良いことなので以上は読み飛ばしていただいて、以下中身をざっと要約。
オーストレイリアに住む若い女性Ruth(Kate Winslet)がインド共和国にある「ババ」なる人物が主導する「カルト」教団に入信。奪回を試みんとする家族・親族その他は、アメリカ合州国から「PJ」なる脱カルトの専門家(Harvey Keitel)を呼び寄せ、Ruthも無理矢理帰国させる。続いて「脱カルトのための逆洗脳には三日必要」云々、というPJの説明から、二人は砂漠の真ん中にある小屋に隔離される。しかし、物語は予想通りの展開へ。すなわち、RuthとPJは年齢差を超えて「男女」の関係になってしまい、問題は脱カルトなんてことよりもむしろこの二人をどうするか、二人はどうするのか、という方向にずれ込んでいく。というお話。
「脱カルト」などというものを一つのテーマにした一見深刻に見えるこの作品、実はいわゆる「セックス・コメディ」と呼ばれるジャンルに含め得る完全な定番プログラム・ピクチャで、エンディングも含めて、基本的には笑わなければならないもの。笑えない人には笑えないと思うけれど…。でも、少なくとも強面(こわもて)俳優であるKeitelの「女装」は可笑しいですよね。
それは兎も角、以下若干深読みを試みると、要するにこの映画、The Pianoの基本設定を部分的に置換しただけの作品、とも取れてしまうのである。すなわち、The Pianoにおいてはニュー・ジーランドに赴いた白人女性が現地人であるマオリの男(Keitelが演じていた。)にピアノを教え始めるのだがやがて二人の間には愛が芽生え、という図式が基本設定としてあったのだけれど、本作ではインドに行ってある信仰集団の思想に染まった白人女性をアメリカ合州国から来た脱カルトを職業とする男性がデ・プログラミング=逆洗脳しようとするのだが二人の間にはこれまたいつしか愛が芽生え、という図式に置き換えられているのだ。
もちろん、The Pianoにおいてもそうであったように、基本的に「文明」ないし「西欧文明」を意図的ないし戦略的に便宜上一身に背負う白人女性ないしアメリカ人男性と、「非文明」ないし「アンティ西欧文明」をこれまた意図的ないし戦略的に便宜上一身に背負わされたマオリの男ないしインドで「洗脳」された女性とが色々な意味で交流する中で、文明とか非文明という枠組みがぶっ壊されていくのを見るのは、確かに感動的かつ痛快ではある。しかし、同じことを繰り返されるのもどうか、と思うのだ。何か別の展開があればそれはそれで良かったのかも知れないが、実際問題特にそういうこともない。The Pianoなんていうそれこそ<物凄い>映画をそのキャリアの早い時期に創ってしまったせいで、行き詰まっているのかな、と感じたのは私だけではあるまい。そういう感慨にも浸らされる映画である。
最後になるが、この監督、これまでは誠にマイ・ペースな感じでほぼ3年おきくらいに映画を創ってきたことになるのだけれど、丁度本年秋頃に新作が公開される模様。さる筋からの情報では「Meg Ryan主演のクライム・スリラ」だそうだけど、これだけ見ると何だか物凄く商業主義的な感じがするのだが…。まあ、期待しましょう。以上。(2003/06/14)