河瀬直美監督作品 『火垂』
仙道直美時代の河瀬直美監督による、「火」を基本モティーフとし、古都・奈良市を主要な舞台とした、アダルト・チルドレン(既に死語?)のストリッパーと陶工を主人公とするラヴ・ストーリーである。はっきり言うが、余り感心しない出来映えの作品で、一切の感動、感慨も沸き起こらなかった。これはひとえに、本作品の要(かなめ)である、ストリッパーや陶工の〈職業〉のあり方がきちんと描き得ていないことから来る両者についての人物造形の甘さによるものだろう。これでは、何故に主人公がストリッパーと陶工でなければならないのかが、良く分からないのだ。前者について言えば、今更職業差別に対する憤りを表現しようとでもいうのかも知れないけれど、時宜にかなったものではないし、後者について言えば、癌で死ぬことになるストリッパーの姉を火葬するための道具立てとして用いるために便宜上設定したもの、という印象が否めない。
それは兎も角として、古都・奈良市を舞台とし、東大寺や元興寺の年中行事を織り交ぜ、ストリッパーを『さくら』英語ヴァージョンで踊らせるといった構成は、明らかに海外の映画祭でのウケを狙ったものとしか思われず、便宜上日本人である私には不快感しか残らなかった。河瀬監督や仙道武則プロデューサは、前作『萌の朱雀』が何故に圧倒的な支持を集めたのかを、もう一度考え直すべきであろう。ただ、冒頭から30分くらいまでの、何が行なわれているのか良く分らない部分はそれなりに面白かった。そのまま突っ走って欲しかったところである。(2001/04/14。4/17に書き直し。)