相米慎二監督作品『風花』
私が尊敬してやまない相米慎二監督の最新作は、小泉今日子・浅野忠信という豪華な顔ぶれによるロード・ムーヴィ。この二人はひょんなことから北海道内をひたすらピンク色のRV車で走り廻るのことになるのだが、北海道と相米監督といえば思い起こされるのがどう考えてもこの監督の最高傑作である『光る女』。ふむふむ、北海道出身の風俗嬢、というのは、かの作品では安田成美が演じていたように思う。風俗嬢ではなかったかも知れないけれど。
そうそう、相米監督は、どう考えても牧瀬里穂・中井貴一主演の『東京上空いらっしゃいませ』以降は自作のパロディというか、自己模倣を繰り返しているわけで、この作品もご多分に漏れないことになる。付け加えると、本作で描かれる所謂「擬死再生」を含む通過儀礼的要素は、『台風クラブ』や『お引越し』にも現われていたものである。それは兎も角として、相米監督により1980年代に製作された素晴らしい作品群を観て育ってきた私としては、同監督が全盛期からの呪縛から一刻も早く解き放たれることを願うばかりである。
とは言え、この作品は誠に愛すべきもの。特にラストの台詞が素晴らしい。(これはある有名なフランス映画と同じなのだけれど、全く逆の意味で用いられている。タイトルは伏せる。誰でも知っている作品ということもあり、そうするとネタバラシになって興趣をそぐ恐れがあるので。)勿論、そこまでもっていくプロセスがなければこの台詞自体が成立しないわけで、その手腕はさすが、としかいいようのないものである。無駄のない、細かいところまで行き届いた演出(この人の無茶苦茶厳しい演技指導はつとに有名。)はやはり見事なもので、同監督の力量が全く衰えていないことを確認できて幸いであった。
娘と離れて暮らす風俗嬢と、アルコール中毒の元・文部省官僚の淡い交流を描いたこの作品は、ロード・ムーヴィという形式も相まって、当然のことながらWim Wenders監督のParis, Texasを彷彿とさせるものである。そうそう、同作品は、記憶が定かでないのだが、確かアルコールで身を持ち崩したHarry Dean Stanton演じる中年男性と、「覗き部屋」で働くNastassia Kinski演じる彼のかつての(だった?)妻の悲しい別離を描くロード・ムーヴィであった。またか、とお嘆きにならないように。この人が今日の映画界に与えている影響力の強さを感じて頂きたいと思う。
最後に、この作品はその殆どが小泉・浅野の対話と回想シーンで成り立っているのだけれど、脇を固める俳優陣も素晴らしい。特に、柄本明・綾田俊樹の東京乾電池コンビは相変わらずいい味を出している。以上、殆ど蛇足に近いことを述べたところで、終わりにする。そうそう、蛇足ついでだけれど、冒頭部で出てきた小泉演じる富田ゆり子が飼っている亀さんはどうなってしまったんだろう?気になるなあ。(2001/02/10)