Terry Gilliam監督作品 Fear and Loathing in Las Vegas

壊れている。完全に壊れている。どう評価して良いものやら。困った。でも、取り敢えず打ち始めよう。

さて、本作はアメリカ合州国出身の映画監督・Terry Gilliamの最新作。全米公開は1998年だから、1年以上日本公開が遅れたことになる。この有名監督にして主演のJohnny Deppの知名度を考えると異常事態だと思う。うーん、確かに、配給会社としても決断に苦慮したのではないかと思われる内容。それは兎も角、私(わたくし)、実はこの人、ずっと英国人だと思っていました。何しろ、あのBBCで放映されていた史上最強のナンセンス・ギャグ番組Monty Pythonに関わっていたのは周知の事実ですから。本作も、ある意味では彼の原点でさえあるMonty Pythonへの回帰を感じさせる作風となっている。いやいや、それどころではなく、更に一歩踏み出してしまったようだ。始めに、困った、としたのはそういう意味である。ここしばらくの堅実な作りの作品群を通じてGilliamを知ったファン達は、本作を目の当たりにして恐らくは面食らうと思うのだけれど、上記の如く考えるとそれなりに納得出来てしまうのであった。出来ないかな?

本題へ。舞台となるのは1970年頃のアメリカ。要するに薬物(アルコールを含む)中毒者の二人連れ(?)がLas Vegasに乗り込んで巻き起こす珍騒動の次第を独特の手法で再構成した作品、ということになるだろうか。要約にはたった1行で足りてしまうのですね。本作品でGilliumは「あの頃は良かった。」なんて戯れ言を決して吐いたりしない。ヴェトナム戦争関係のニュース・フィルムがふんだんに散りばめられているのも、あの時代に対するへんてこりんな憧憬みたいなものに対するアンチ・テーゼの突きつけともとれないことはない。当然のことながら、ドラッグ・カルチャー礼賛なんてことも一切しない。反対に、Deppをして、ドラッグは害悪だ、などという台詞を、あくまでもラリった状態で、という留保条件付きではありながら言わせている。要するに、両義的なのだね。ちなみに「M.Meadはマリファナ中毒でバッド・トリップを起こして死んだ」、なんてのはジョークとして高級過ぎたのか、誰も笑ってなかったぞ。誠に文化水準の低い国だな。日本なんてのは。

脈絡のない映画を評しているとこちらの頭も脈絡を失ってくる。以下は例によって蛇足ということにしよう。

管見する所、本作はどう見てもDennis Hopper監督・主演のEasy Rider、などではなく、Mike Figgis監督、Nicolas Cage主演の映画Leaving Las Vegasのパロディ。但し、パロディとは言っても殆どオチョクリに近いものだし、ある意味で、深読みをするならばこちらの方が筋が通っているような気もする。そうそう、例えば何度か映し出される、ひょっとすると実在するのかも知れないLas Vegas近郊の路傍にある看板には‘Leaving Fear and Loathing in Las Vegas’なんて書いてあったりするのだ。それは置くとして、Leaving...は表面上はアル中男性と街娼を主役とする「おセンチ純愛映画」で、確かに悪い作品ではないのだけれど、「勝手にしてくれ」、と言いたくなるのも事実である。何しろこの映画の二人の主人公はこれまたよく考えてみれば周りの迷惑顧みずの無茶苦茶し放題なのだ。その点、Fear and...の方がずーっと筋は通っている。本作における薬物中毒者Deppもまた、その実在すら怪しいその弁護士と共に完全に自分を見失い、無目的かつ無秩序極まりない迷惑行動を繰り広げる。この映画にはそもそもプロットらしいプロットが存在していない。作り手自体がラリっているのではないかとさえ感じさせるように作られている。筋が通っている、というのはそういう意味である。

更に付け加えると、Leaving...でCageがわざわざ髪を薄くして窶れた雰囲気を醸し出していたのを著しくデフォルメして、本作でDeppは殆ど「ハゲ親父」に扮する加藤茶の如きヘア・スタイルで登場する。はっきり言ってやり過ぎです。

最後にもう一つ、Leaving...では街娼たちが客を捕まえる際のクリシェとして「業界の集まり?」というセンテンスを多用するのだが、本作ではDepp扮するジャーナリストはLas Vegasで行われるオフロード・バイク大会と「全米検事協会(?)」の恐らくは「ドラッグ撲滅」をテーマにしているのだろう会合の取材をすることになっている。要は、業界の集まりな訳です。そういう場所なのですね。更に蛇足を重ねると、前者は明らかにEasy Riderを意識しつつ、全然easyではない砂漠での過酷(hard)なバイク・レースに血道をあげる男達への、後者はギャンブルが公認された都市でドラッグ撲滅を叫ぶ国家の手先達への当てこすりである。この辺り、かなりMonty Python的なブラック・ユーモアのような気がしたのだけれど、如何なものでしょう。(1999/12/23)