Gerard Corbiau監督作品 Le Roi Dance
ベルギー出身の(ということは、あの人類学者と同郷…。)名匠Gerard Corbiau監督による、フランス宮廷劇である。原題直訳の邦題は『王は踊る』。

さて、本作品の舞台は17世紀半ばのフランス、当時の治世者にして舞踊の名手でもあったLouis XIV、フィレンツェから呼ばれたLouis XIVの音楽教師にして17世紀後半のフレンチ・バロック最大の作曲家であるJean Baptiste Lully、同じくLouis XIVのお抱え喜劇作家Moliereの三者を中心にして織りなされる、政治劇であり音楽劇であり舞踊劇であり演劇劇となっている。

そう、「政治劇であり、(以下省略)」というわけで、確かに美術、衣装、振り付け、音楽、主演・助演の俳優たちの演技等々には目を見張るものがあったのだけれど、要するに散漫な内容で、全くといって良いほど話の中心が定まっておらず、もう一つ奥行きないしは深みの感じられない作品となっているのが誠に残念であった。

もう少し敷衍するならば、音楽や舞踊、あるいは演劇といったパフォーミング・アーツそれ自体の持つ政治性や、更にはまたその政治や権力との関わりというのは、学問上極めて重要なテーマなのであり、私自身もそういうことを念頭に研究を進めているのだけれど、本作品は表面上こういうテーマを扱いながらも、何とも掘り下げが不足しているのがやはり致命的、と考えざるを得ないのである。

すなわち、Lullyの音楽と、それを伴ってのLouis XIV自身の舞踊が、ブルボン王朝を再興させた、という余りに短絡的な図式は、頂けなかった次第。人類学が古くから扱ってきた、王権自体の持つ演劇性や、演劇性によって支えられる王権に関する議論をきちんと踏まえていれば、こんなことにはならなかったように思う。王権とパフォーミング・アーツの関係は、本作品が基本的に依拠しているかのように見える機能主義的図式によって説明されるほど単純明快なものでないことは、20世紀半ば以降の人類学(主として、象徴人類学である。)が解明したほぼ自明の事柄なのである。以上。(2001/08/19。ちなみに、Gerardの「e」、Moliereの二番目の「e」はどちらも右上がりアクサン付きである。)