Lilith Fair : A Celebration of Women in Music
Sarah McLachlanの提唱により昨夏約2ヶ月にわたって行われた、べらぼうな人数の女性アーティスト達による音楽の祭典Lilith Fairの模様を収録した2枚組CDである。Disc1はメジャーどころを揃えており、Paula Cole、Indigo Girls、The Cardigans、Lisa Loeb、Susanna Hoffs、Suzanne Vega、Joan Osborne、Sarah McLachlan等(ちなみに他にも何名かあり。)の名前は恐らく誰でも聞いたことがあると思うのだけれど、Disc2の方はとんでもなくマニアックなもので、私が知っているのも精々Meredith Brooks位なのであった。まあ、いちいち記すのは面倒なので、詳しくはLilith Fairの公式サイトを見て頂きたいと思う。こちらには本CDに収録されていないアーティスト名も挙げられているけれど、上に示したリストと併せて見て頂ければ分かる通り、誠に途轍もない企画である。最近北米で活躍している女性アーティストはほとんど網羅されてしまっているような気がする。Sarah McLachlanのフィクサーとしての才能もとんでもないものなのだな、などと思わずにはいられない。
さて、全体的な印象としては、アコースティック・ギターを抱えて歌いまくる、サウンド的に言えばフォーク系と言っていいアーティストが多いな、と感じたのだけれど、録音技術に頼りがちな日本の女性ヴォーカル(男性もそうだと思う。)達とは違って、「ギター一本でも大丈夫」、なんて事をほんとに言いかねない、ライヴ・パフォーマンスがきちんと出来る北米その他の女性アーティスト達は本当に偉いなあ、などと詰まらぬ事を考えてしまった。私自身が音楽をやっているせいもあるのだけれど、個人的にはやっぱり録音技術に頼っているうちは本物ではないように思っている。それなりに優れたアーティストを輩出している最近の日本の音楽シーンの状況は把握している積もりだけれど、もう何年も日本のアーティストの作品を買っていないというのにはそういう理由があるのである。
ところで、日本ではこういう企画は無理なんだろうか。その場合、日本の文脈で"Lilith"にあたるのは何なんだろう。「イザナミ」かな?「アマテラス」でもいいかも知れないけれど、そもそも"Lilith"ってのはキリスト教的な文脈で言えば、「正典」の『聖書』などではアダムの最初の妻であるにも関わらず「イヴ」とは違って固有名も与えられていないような、むしろ「異端」に属するものとされている訳だしね。だからこそ、"Lilith"はフェミニスト神学的な文脈で持ち出されたりするんだけれど、そうすると、当然の事ながら日本神話の「正典」である『紀記』を持ち出すのは余り意味がない事になってしまう。『紀記』に対する「異端」と言ったら、何があるんだろう。『出雲国風土記』とか『常陸国風土記』辺りかな。でも、あれも編纂したのは「大和朝廷」だからな。要は、日本神話は『聖書』などに比べれば家父長制的な要素が薄いので、日本の社会においてはそれに対するオルタナティヴなり「異端」みたいなものを産み出す力学みたいなものが働かなかった、あるいは働かない、ということもあるのかも知れないな。つまりは、初期のフェミニストが『紀記』を持ち上げていたりもする訳だしね。まあ、それはともかくとして、ユダヤの民間信仰の文脈では子供をさらったりもすると言われていたりするんだから、中国起源の妖怪である「ウブメ(姑獲鳥)」的なところもある。でも、「姑獲鳥祭」じゃ、何だか訳が分かりませんな。京極夏彦のファンクラブの会合だと思われてしまいそうだ。
いつものように、話がそれたところで終わることにするけれど、ちょっとだけ付け加えると、本CDの売り上げの半分はRAINN(Rape & Incest National Network:レイプや近親姦の被害者救済を行っている組織らしい。)及びLIFEbeat(AIDSと闘うミュージシャンの組織らしい。)という団体に寄付されるということらしい。ということは、私は恐らく1,500円ほど、これらの団体に寄付をした事になるのだと思うのだが、ほんのささやかな額ではあるけれど、何かの役に立てば、などと思う次第である。(1998/06/06。06/07に少々修正。)