paul thomas anderson監督作品 magnolia
雨の日に鑑賞。巨匠への道を着実に歩んでいる感のある期待の新星p.t.anderson監督最新作である。繰り返しになるけれど、magnoliaとは木蓮の事。といって、本作品との関係が良く分からない。花言葉みたいなものが在るのかも知れないけれど、調べられない。という事で、無視しよう。

さて、事前から見当はついていたのだけれど、本作はあからさまなRobert Altman監督へのオマージュ。Altmanお得意の群像劇の手法を見事にコピーしている。正直言って、Altmanの最新作Cookie's Fortuneと比べて見ると、最早世代交代は終ったかな、という気がする。前半、というより全体の3分の2位まで続く畳みかける様な短いシーンの連続の持つテンションは極めて強烈で、この部分の編集力は誠に驚くべきものだ。お終いの3分の1位は打って変わってしんみりとしたややおセンチな演出。ラスト近くの唐突な異常事態の発生で再びテンションが上がってそのままエンディングへ。まさに緩急自在。お見事。新たな才能の出現を祝福しようではないか。

ところで、本作は大筋5本位のプロットが交錯するのだけれど、作品全体を貫く基本テーマに気付かれたであろうか?それは、端的に言って、「コミュニケーションの欠落」である。マッチョでファロサントリックな「男性啓発セミナー」主宰者とその父及びアフリカ系女性インタヴュア、天才クイズ少年とその父、薬中の若い女性とその父及び彼女に懸想するバツイチ警官、その警官とストリート・キッド化するアフリカ系少年、病気の夫の為に薬集めに奔走する妻と薬局員、元天才クイズ少年と彼が懸想する青年等々。どれもこれも、相互のコミュニケーションは不完全である。伝えようとするメッセージは、常に何らかの障害によって遮断されている。それでも尚、作品世界乃至は社会が成立してしまう、という所が面白いのであって、ある意味で例えば現象学的社会学だのシンボリック相互作用論みたいなものに対する批判なのかな、とも思わせる。言語行為によるコミュニケーションより、血縁関係だの社会的地位に基づく関係の方が、潜在的ながら実は重要なのだ、と言いたいのかも知れない。深読みだろうか?いやいや、なかなか奥の深い作品なのだと思う。

なお、アカデミー賞3部門ノミネートの前作Boogie Nightsに引き続き、本作もまた同じく3部門ノミネートとなっている。快挙と言って良いだろう。前作とのキャスト、一部のモティーフ(ファロサントリズム、コケイン、メディアに乗ることの圧力等々。)の重複が激しくて、それだけでも笑える。助演男優賞ノミネートのTom Cruiseは確かに良くやっているけれど(といって、オスカーは取れないだろう。今回の受賞はは恐らくあの驚くべき少年だろうから。)、特筆すべきは前作で助演女優賞ノミネートとなったJulianne Mooreの演技であろう。この人は、AltmanのCookie's Fortuneでも好演していたけれど、このところ、出ずっぱり、という感じである。その他の俳優人も隙のない見事な演技を見せている。何と言っても、あれだけ複雑なプロットの交錯にも関わらず、誰が誰だか分からなくなることは多分無いだろう個性的な顔を良くもここまで揃えたな、という事も述べておこう。F.Feliniかいな。

最後に、ラスト近くの天変地異についても一言述べておきたい。別段必要なシーンとも思えなかったのだけれど、本作のテーマが「コミュニケーションの欠落」にある事を考えると、これは作者と観客の間にも同じ事を持込むべく導入されたのではないかという読み方も不可能ではない。勿論、あれは基本的に「聖書」的な現象なのだから、神と人との間のコミュニケーションの欠落を示しているのだ、という解釈も可能である。神乃至自然の意図は計り知れない、と。この部分は賛否両論在ると思うのだけれど、どっちつかずの評価を行ったところで、終わりにしたい。(2000/03/19)