Steven Spielberg監督作品 Minority Report
Philip K. Dickの短編を原作とする、Steven Spielberg監督による大がかりなSF超大作映画である。時は2054年、場所はワシントンD.C.。殺人事件は3人の予知能力者によってあらかじめ予知され、未然に防がれる社会。そんな中、未来に起こる殺人事件を捜査し、殺人者をあらかじめ逮捕する機構の中心的役職に就くJohn Anderton(Tom Cruise)自身が次の殺人事件の犯人となることが予知され…、というお話。
一つ一つの小道具に徹底的にこだわる同監督だけれど、これはまさにP.K.Dickの小説を映像化するにはうってつけの才能。起伏に富んだ物語自体も楽しめるのだけれど、原作を読んでしまっている私にはどちらかというと本映画の強力スタッフによる50年後の世界構築の在り方が面白かった次第。
まあ、難点もある。まずは、誰でも気付くことだけれど、主人公の勤務する警察機構庁舎のセキュリティが、余りにも甘く描かれているのは問題。網膜だか虹彩チェックだかを巡る一連のプロットのアイディアは確かに面白いのだけれど、肝心なところで墓穴を掘っている…。また、Dickの諸作品にはあからさまな反権力、反システムの志向が認められるのだけれど、この映画ではその点が薄められている点、更に言えば未来は予知し得るのだけれど意志によって変えられる、というまことに凡庸な道徳観が打ち出されてしまっている点などもやや残念であった。Dick流の「冷めたあるいは醒めたヒューマニズム」とは、こういうものではないと思うのだが…。
まあ、こんなところにしよう。そうそう、スウェーデン出身の名優Max Von SydowがAndertonの上司役で登場し、健在振りを見せてくれるのは何ともうれしいところ。この人、古くはIngmar Bergmanの諸作品に数多く出演し、あるいはまたかの有名な作品であるThe Exorcist(1973)にそれこそエクソシスト(敢えて訳せば「祓霊者」かな?)役で登場していた方なのです。蛇足ながら。以上。(2002/12/23)