滝田洋二郎監督作品 『陰陽師』
ご存じ夢枕獏による伝奇小説シリーズ『陰陽師』を、『コミック雑誌なんかいらない』(1986:なお、この映画に先立つ1983年に作られた同じく内田裕也主演、崔洋一監督の映画『十階のモスキート』には、まだ16歳位だった頃の小泉今日子が出演していたことを思い出していただきたい。この度小泉今日子が、人魚の肉を食べることによって不老不死の肉体を持つこととなった「青音(あおね)」という準主役級の役柄を得た背景がここにあるのは、間違いなく邪推なのだろうけれど、そんな気もすることも一応述べておく。)を撮った滝田洋二郎監督が、無形文化財に指定されている狂言師・野村万作の息子であるなんてことは既にどうでも良くなってしまった感すらある狂言師・野村萬斎主演によって映像化したもの。黒澤明の『乱』(1985)にちょい役で出演していたことがあった野村萬斎にとっては、実に初主演映画となる。
舞台はこれまたご存じの通り平安時代は10世紀中頃の都である平安京。安倍晴明(野村萬斎)の上司にあたる、陰陽頭(おんみょうのかみ)を勤める道尊(真田広之)は、我欲に導かれるままに陰陽道の得意技である「呪(しゅ)」を悪用することで天皇家を滅亡させ、自らが国を治める地位に立つことを画策(道尊は端的に言って、テロリストです。なんて時宜にかなった作品であることか。大ヒットもやむなし、といったところ。)。最終的には天皇家に対する瞋恚の念では誰にも負けないであろうと伝えられる、かの有名な早良親王(萩原聖人)の霊を召還、テロを超えた最早クーデタとも言い得る事件を引き起こし、都を大混乱に陥れることとなる。これを迎え撃つ晴明の唯一無二の友である源博雅(伊藤英明)を含む近衛師団。しかしながら、最終防衛戦はあっという間に突破され、物語は平安神宮を舞台にした晴明v.s.道尊の一騎打ちへとなだれ込むこととなるのだが、その結果やいかに、といったお話である。
そう、基本的なお話そのものは誠に他愛のないものである。それでもなお、一見するところ極めて単純明快な勧善懲悪の凡庸なる反復のようにも思えるこの作品なのだけれど、別にたいして深読みせずとも実はそうではないことははっきりしている、ということをきちんと述べておかなければなるまい。即ち、この作品において安倍晴明が、「都が滅びようがどうなろうが構ったものではない。」、という言明を行なうような極めて「公共心が薄く」て、「政治に無関心」な性格の持ち主に設定されていること、そしてまた、それでも唯一無二の親友である源博雅が窮地に陥ることで、ようやく「こりゃあ、ワシが一肌脱がなきゃいかんわい。」というような感じで道尊とのそれなりに真剣な「闘い」(というより、この部分で晴明は、道尊が取り込まれてしまった「我欲」という「呪」を解き放つ作業を行なっているのである。)に馳せ参じる、という脚色は全く妥当なものだと思ったし、実はこういう人物造形こそが、夢枕獏描くところの安倍晴明をして絶大な支持を与えている一要因どころではない大きな要因なのだな、などと考えた次第。
そう、この点にこそ、今日数多ある陰陽道だのシャマニズムだのをその物語世界の重要な構成要素として盛り込んだ、一連のスピリチュアルでオカルティックな文学作品やコミックに通底するかに見える、「主人公は世界の救済などよりも、より身近で親密な関係にある一人の人間を救済することに意味を見出す。」という作品構成上の基本姿勢をかいま見ることが出来るのである。ちなみに、「一連の…文学作品やコミック」が具体的に何なのかについては、余りにもマニアックになってしまうのでここでは述べないでおく。
以下、蛇足だけれど、映画『陰陽師』公式サイトにアルファ・インターネットADSLコースの格安優待券が当たるクイズがあって、ちょっとトライしてみたところ、一発で全問正解してしまいました。まあ、簡単な問題ばかりだからなー。皆様も挑戦してみて下さい。ということで。(2001/10/27)