Andrzej Wajda監督作品『パン・タデウシュ物語』
ポーランドの国民的叙事詩、というのか、或いはポーランド国民が創造/想像されるのに一定の役割を果たしたものと思われるアダム・ベルナルド・ミツキエヴィチ Adam Bernard Mickiewicz の叙事詩『パン・タデウシュ物語』の、ポーランドが生んだ世界の巨匠アンジェイ・ワイダ Andrzej Wajda 監督による映像化である。
舞台はナポレオンがロシアに侵攻した19世紀初頭の現リトアニアのとある農村。その当時ポーランドはロシア帝国によって分割統治されているのだが、パン・タデウシュ Pan Tadeusz とその一族、そしてその領内の民衆達は、ロシアに反旗を掲げ、時を同じくして侵攻してきたナポレオン軍とも連合。しかしながら1812年から始まるナポレオンの敗走に伴ってリトアニアの地を追われフランスに亡命。時は流れて1834年、やはりパリでの亡命生活を送っていたミツキエヴィチはこの映画の元となった叙事詩を執筆することになる。
以上がこの映画の概要。しかし、これは物語の大枠に過ぎず、中身はあくまでも敵対する二つの家系の人々による愛憎劇である(かなり複雑なので、詳細は省かせて貰う。)。その敵対関係は、「ロシア」、という共通の敵を見出し、ポーランド・ナショナリズムが醸成されるのに並行する形で解消される。1840年代に書かれたこの叙事詩が、見事なまでに当時のヨーロッパに流布していた国民国家観をなぞっていることは、誠に興味深いことである。もう一つ付け加えると、本作品に描かれたポーランドの姿を、ドイツとソビエト連邦に挟まれて、国境線が変更乃至消滅する事態を20世紀中に何度も経験してきた今日のポーランドの姿と重ねるのは簡単である。政治的フィルムを何本も製作してきたワイダ監督の、またしても極めて政治的なフィルムなのであった。(2001/02/14)