Ademir Kenovic監督作品 Le Cercle Parfait
本作品はボスニア・フランス合作。第10回東京国際映画祭グランプリ及び最優秀監督賞受賞作である。舞台は数年前の内戦状態にあったサラエヴォ。内戦により両親を失った兄弟と、妻子が国外に脱出し独りサラエヴォにとどまった詩人の交流を描いた作品である。タイトルの「完全な輪」というのは色々な意味を持っていて、基本的には詩人が創作にいき詰まった時に描くことによってカタルシスを得るという、紙に描かれた輪のことなのだけれど、それはセルビア人兵士達によって包囲されたボスニア人居住区でもあり、また、詩人の自殺願望を示す首吊りの縄の輪のことでもある。この辺はそれなりに面白いのだけれど、「物語」自体はいわゆる「反戦映画」に良くある極めて平凡かつありきたりなもので、ちょっと頂けない。しかし、こういう作品が作られることの意義はよく分かるので、余りきついことは書かないことにしたいとも思う。ただ、一つだけ言っておくと、この映画には「歴史性」が欠落しているように感じられた。たまたまここで描かれているのがほんの数年前の出来事だからこれを観る人々には了解事項が存在しているのだけれど、しばらくすると「反戦映画一般」のカテゴリーに貶められてしまいかねないのである。あくまでも、P.オースターの描く「最後の物たちの国」を彷彿とさせるサラエヴォのボスニア人居住区住民の、内部からの視点で語る、という意図は理解出来なくもないのだが、ここではそもそもこの内戦がなんで起きたのかという歴史・政治的事情が全く説明されていないし、そもそもセルビア人はひたすら悪者にされてしまっていて、これでは彼等の立場はどうなるんだ、という批判を甘んじて受けることにもなりかねないだろう。こういうことの回避は、内部の視点を貫いたとしても不可能ではないような気がするのだがいかがだろうか。(1998/06/16)