カン ジェギュ監督作品『シュリ』
遂に始まったDVD評の筆頭を飾るのは、1999年に大韓民国で空前のヒットとなり、日本でも100万人以上を動員したというこの作品。お金を掛けたアクション・シーンに、切なくも趣き深いラヴ・ストーリーを絡めた第1級のエンターテインメント作品で、単なる娯楽作品として、或いはまた南北の分断・統一を巡る政治ドラマとして、更には製作者が元々は意図していないかも知れない〈政治性〉をこちらで勝手に読み込むなど、色々な意味で楽しめる。

ごく私的には、「キッシング・グラミー」という見たことも聞いたこともない夫唱婦随の鑑賞魚や、光と熱を加えると約30分程で爆発するという新兵器「CTX」という二つの重要な小道具の使い方のうまさに感心した。前者はこの映画の中核をなすラヴ・ストーリーに深みを与え、後者もまたアクション・シーンに緊迫感を与える見事な効果を発揮している。

編集の甘さや、人物造形がやや平板であること、サウンド・トラックがどうにもダサイ点などに問題があるけれど、サッカーの2002年W杯韓国・日本共催記念南北対抗戦における両国首脳暗殺テロ=「シュリ作戦」の首謀者が、あくまでも〈元〉朝鮮民主主義人民共和国の特殊工作員で、両国の雪解けムードに反発して勝手に暴走しているという設定は、誠に興味深いものである。朝鮮民主主義人民共和国を決して「悪玉」として描かないという点で、本作品が極めて画期的なものであったことは、今後語り草になっていくことであろう。

また、勝手に暴走している元特殊工作員達の主張も1995年に日本国内で意味不明のテロ事件を起こしたオウム真理教改めアレフのような訳の分からないものではなく、ある種の共感さえ覚えるものである。南北の分断から和解へという近年における一連の動きの中で、そうした本流から外れてしまい、要はそれまでの人生(特殊工作員になるべく余儀なくされた厳しくもつらい訓練の日々ですね。)を否定され、それによってある種のディレンマに陥って暴走する者達の悲劇、という描き方が、テロリズムにおける暴力性は否定しつつも、その動機については必ずしも理解出来ないことはない、と言わんとしているのは間違いなく、そうした製作者の姿勢にも共感を覚えたのであった。(2001/03/20)