メイベル・チャン監督作品 『宋家の三姉妹』
    どこまで実話で、どこまでフィクションなのだろう?舞台は19世紀末から今世紀半ば頃までの中国。大富豪チャーリー・宋の娘三人、靄齢(ミシェール・ヨウ)、慶齢(マギー・チャン)、美齢(ヴィヴィアン・ウー)の数奇な運命を描く。うーん、数奇過ぎる。ここまで行くと眉唾物である。長女靄齢は中国有数の富豪らしき孔祥煕と結婚。次女慶齢は革命家・孫文と結婚。三女美齢に至っては蒋介石と結婚。なんなんだ一体この家族は。それはそうとして、この作品では、孫文による革命や、国民党の結党、孫文死後の蒋介石による国民党支配、毛沢東が主導権と握っていたはずなんだけどあんまり登場しない共産党との抗争、これと和解しての抗日戦線の結成、日本軍敗退後の両者の再度の対立、国民党政府の台湾への移動、といった教科書にも書かれている歴史的事実を追っているのだけれど、国共合作に宋家の次女・三女(特に三女。あの飛行機着陸シーンのスピルバーグ的凡庸さはちょっと頂けない。)が極めて大きな役割を担ったことだとか、蒋介石に反発し国民党を脱退し共産党の人間となった次女・慶齢が蒋介石と激しくやり合うシーンなどを見ると、これって、実話なのか、と思わざるを得ないのだ。(ところで、マギー・チャンは例えばウォン・カーアイの幾つかの映画ではほとんどしゃべらない役ばかりだったけど、本作後半では共産党の闘士らしくしゃべりまくっているのが印象的だった。)まあ、国民党の活動の全てにおいて孔家・宋家の財力が必要不可欠であった、という描き方だとか(革命にはお金がいる、ということですね。共産党はそれで国民党と分裂したらしいんだけど。持ち上げてるなー。)、上に述べたような教科書に名前の出てこない女性達が、「新中国」が成立するに当たって果たした役割はかなりのものであるという描き方などは(この辺、ヘーゲル批判だったりして。中国ではボーヴォワールはどれくらい読まれているんだろう?)、かなり意図的なものであって、その辺を勘違いしてこれは事実に即したノンフィクションなんだ、などと考えたりしては絶対にまずいのである。そうではなくて、本作はひょっとすると、女性監督であるメイベル・チャンなり製作スタッフの、現在の中国における経済開放政策なり、女性の地位向上なり、台湾の中華民国の存在は基本的に認めないという立場なりといった、孫文の思想の正統な継承者である中国共産党のやって来ていることは全て正しいのだ、というプロパガンダ映画かも知れない、ということを意識しつつ、歴史なり、事実というものが後にはいかようにも解釈され、構成されうるものだということを改めて認識する機会にしなければならないのである。ちなみに、孫文と慶齢の結婚式は日本において行われたらしく、ロケには大覚寺を使っていたみたいだけれど、慶齢の胸に十字架が光っていたことに気付かれたであろうか?それはそうと、ある知人も申していたが、この結婚式は何式なんでしょうね?宋家はクリスチャンなのだけれど、孫文はどうだったんだろう?革命家だから無宗教かな?では、なんで寺なんだ?もう一つくだらんことを付け加えると、中秋の名月を見る、という行事において食べるのが「月餅」だったことを今更知った。しかし、あんなに大きいとは。驚きである。日本だと「月見団子」ですね。更にくだらないことを打ち込みそうだけど、止めておこう。(1999/05/17)