河瀬直美監督作品『萌の朱雀』
1997年カンヌ映画祭新人賞(カメラ・ド・オル)受賞作品である。西吉野村を舞台に、鉄道計画の中止に伴う一家族(ここでは一家屋に住む親族関係を持った同居人という意味)の崩壊を描いている。切りつめられた台詞のためもあってか、主人公の少女と彼女が思いを寄せる少年→青年の親族関係がよく分からなかったのだが、一応「交叉イトコ」と考えていいのだろう。日本ではイトコ婚や、場合によってはオジ−メイ婚(法的にはまずい。)もよく見られることなのだけれど、吉野地方では禁忌になっている可能性もあって、その辺りがもう少し明瞭に描かれると物語に一層の奥行きが出たのではないかとも思う。
撮影は現存する民家を使ってのオール・ロケーションで、出演者の多くは西吉野村の人々らしい。作品中で使われている、主人公の少女の他界した父が残した8ミリ映像は河瀬のドキュメンタリー・フィルム『杣人たち』にも使われているものかも知れないのだが、未見のため何とも言えない。この『杣人たち』は私の研究分野とも深く関わるので見ないといけない。それは措くとして、考えてみれば、ロケが出来るのはこの民家が空き家になっているからなわけで、それがこの映画に一層のリアリティをもたらすという効果を生んでいる。私も宮城県や山形県の特に山間部でこうした空き家、さらには廃村みたいなものも数多く眼にしているのだけれど、産業構造が激変してしまった今日にあっては致し方ないのかな、とも思う。稲作の困難な山間部では、果樹栽培への転換が成功していない限り、過疎化ひいては廃村化はのがれ難いことが方々を歩いていると見て取れるのである。木工品みたいなものも、余程伝統工芸として優れていて無形民俗文化財に指定されるようなことがない限りは、工業製品には商業的にいって太刀打ち出来かったわけだ。なお、そういう土地の多くでは「かつては養蚕が盛んだった。」というようなことが言われるのだけれど、吉野付近はどうなのだろうか。奈良・京都が近いので、多分かなり古くから盛んに行われていたのではないかと思うのだが。どなたかお詳しい方がいらしたらご教示下さい。(1997/12/20)