Sally Potter監督作品 The Man Who Cried
邦題は『耳に残るは君の歌声』。原題の「泣き叫んだ男」では何のことやらさっぱり分からないので(それが誰のことなのだか良く分からない、ということです。)、実のところそっちの方が良いのではないかと思うのだけれど、それは置く。
さて、本作品は良品を送り出して来た寡作作家・Sally Potter監督による、とあるユダヤ系女性の半生記。時代は第2次世界大戦前から戦争初期。幼い頃にアメリカに渡った父を探すユダヤ系ロシア人の女性難民でありかつまた歌手でもあるSusie(これは亡命先の英国で付けられた名前。まだ若いのに既に膨大な数の作品に出演してきた、ポストJodie Fosterの筆頭と見なして良いだろうChristina Ricciが演じる。)はパリでLolaという名のダンサー(Cate Blanchett)と共同生活を始める。Lolaはイタリア人のオペラ歌手・Dante(John Turturro)と、Susieは「ジプシー」の馬乗り・Cesar(Johnny Depp。C.Ricciとの共演がやけに多いのが気になる。)とそれぞれ恋に落ちるのだが、時代背景からして当然の事ながら人種・民族問題が絡んできて、事態は悪化。その後の展開は特に示さないけれどやや安易な形で映画は終わる。
まあ、取り敢えずは「可もなく不可もなく」、という印象の作品なのだけれど、いかにもありきたりな歌劇を援用している点(今更、VerdiとPucciniでもないでしょ。ちなみに、映画の中で使われたオペラ・アリアを歌っているのはSalvatore Licitraという名前からして間違いなくイタリア系のテナー歌手。日本では今のところ全く無名ですが、なかなか良い声をしています。)、更にはテーマもまた余りにも使い古されたものである点などは、やや不満が残った次第。数あるディアスポラ映画の常道に従い過ぎているように思う。主演のC.Ricciは確かに好演しているけれど、脇を固める3人の豪華キャストが今一つ充分に活かされていない点も問題だろう。もう少し人種・民族問題を深く掘り下げるとか、音楽・演劇が基本モティーフなのだからその点にもう一段の工夫を凝らすとか、そういったことをすればより見ごたえのある作品になったことと思う。才能あるPotter監督の次回作における奮起を期待する。以上。(2002/01/23。1/29にやや改稿。)