Danny Boyle監督作品 Train Spotting
なかなかP.グリーナウェイの『枕草子』が始まらないので、その上映が予定されている劇場で8ヶ月ものロングランを続けている作品とは一体何なのかと思いとうとう見てしまった(7/8)。本作はIrvin Welshの同名の小説の映画化であり、簡単にいえばスコットランドの薬漬け、アルコール漬け少年達の悲惨な青春ドラマである。簡潔で、よくまとまった作品である。1990年代型『時計じかけのオレンジ』とでも形容していいだろうか。主人公は自分のヘロイン中毒に対しても、さらには硬直した大人の社会への恭順にも疑問を感じていて、往復運動を繰り返す。エンディングで彼は仲間を裏切り外国へと逃げるのだが、これを薬仲間からの離脱すなわち大人社会への順応ととるか、あるいは別の国でもまた薬漬け・アルコール漬け生活をし続けるのか、という点については明確な回答は与えられておらず、むしろそうした宙ぶらりんの状態をむしろ肯定するかのようにして終わる。
イングランドに征服されたスコットランド人のルサンチマン、そして日本と同じような制服女子高生があの国にもいること、アメリカのコカインとは違ってそこではヘロインが主流であることなど表現されていて興味深かった。ただし、以上はこの作品が事実を反映しているという仮定に基づいている。監督やプロデューサーをはじめとするスタッフはスコットランド人なのか。そしてまた、彼らはケルト系なのかアングロサクソン系なのか。さらには彼らが所属するのは国教会なのかカソリックなのか。それらの点についての事実確認が必要である。Welshの小説の翻訳も、本映画のプログラムも買っていない私には情報が少なすぎる。ともかく、曖昧な情報による一種のオキシデンタリズムへの陥穽は厳に慎まなければなるまい。
さて来週はいよいよ『枕草子』論である。(1997/7/14)