M. Night Shyamalan監督作品 Unbreakable
インド出身の新鋭M. Night Shyamalan監督による、「Bruce Willisを主演とするサスペンス・ホラー連作」(かどうなのかは良く分からないのだが、以下勝手にそう呼ばせて貰う。)の第2作。同監督はこの作品で、好評をもって受け入れられた同連作の第1作The Sixth Senseにおいて見られたと同様に、その大変な力量を再度遺憾なく発揮している。巧みに構成されたプロット、主要な登場人物4人の造形、圧倒的な喚起力を持つ映像とサウンド。どれをとっても全くと言って良いほど隙がない。見事なものである。

色々と書き込みたいことはあるけれど、何を書いてもネタバレになりそうなので禁欲するが、取り敢えず本作品は、アメリカン・コミックに典型的に見られるような(周知のようにジャパニーズ・コミックにも皆無な訳ではない。)、アメリカ社会における強靱かつ完全なる肉体・身体への羨望や信仰とすら言えるものに対する一種のアイロニカルな視点を提示したもの、というようにごく私的には解釈した。ここで重要なことは、本作品が善と悪の二分法を必ずしも自明なものとしていない点である。両者はあくまでも相補的乃至は「卵と鶏」的なものとして扱われている。ジャパニーズ・コミックやアニメーションへの言及がちらりとなされるのだけれど、基本的に明確に勧善懲悪なアメリカン・コミックからの影響を被りながらも善悪の境界をぶち壊すことに血道を上げてきた感すらあるジャパニーズ・コミックへの言及は、Shyamalan監督の嗜好の在り方を示すとともに、本作品がBruce Willisというアクション・スターを屈折した形で起用したこととも相まって、上記の如き善悪の単純な二分法を破綻させようとする意図をも感じ取らせるものであった。Willi演ずる不滅の肉体を持つ可能性のある主人公がDavid、それとは対照的にSamuel L. Jacksonが演じる脆弱極まりない肉体を持つアフリカ系男性がElija(英語では「イライジャ」と発音される。)という名前なのも面白いのだが(どちらも『聖書』の重要な登場人物である。)、これ以上の言及は明らかにネタバレなので避けることにしたい。

さて、この作品の難点の一つは、やはり前作(The Sixth Sense)と余りにも酷似した人物及びストーリー設定ということになるだろうか。主演のWillisは同じような悩める中年男を演じているし、家庭内別居状態にあるその妻(Robin Wright Penn)、及び父の不滅性を信じるその息子(Spencer Treat Clark)の両者は前作と明らかにキャラクタがかぶっている。ストーリー設定にしても、特殊な能力を持つ人物がその能力に目覚めていくプロセスを描く、という点でやはり類似というよりは同型性を持ったものである。ちょっと「芸がない」のでは、などとも思う。但し、別の見方をすればこれは作為的なものかも知れず、確かに既に前作を鑑賞した客に対してはある効果(それがどういうものなのかはうまく説明出来ないのだが…。)を付け加えていることは間違いない。いずれにせよ、二つの作品をShyamalan監督、Willis主演による一つの独特かつ確立されたスタイルを持つサスペンス・ホラー連作として捉えれば、それでは次回作はどうなるのか、などと考えさせられたのであった。俊英の更なる飛躍を期待したい。(2001/03/09)