Julian Temple監督作品 Vigo
フランスの映画作家Jean Vigoの「伝記」映画である。伝記にカッコを付けたのは、本作品がVigoの生涯を徹底的なまでに「物語」化してしまっていて、「こんな絵に描いたような人生ってありかよ」という感想を誰しもが持つであろうからである。この映画では、Vigoの人生史は次のような言葉で要約されてしまっているように見える、すなわち、アナキストの父の息子というレッテル、結核、不屈の精神、映画への愛、妻との出会い別れその他、そして、死等々。何とも古くさくて、ありきたりなモチーフをつなぎ合わせていることはこれらを見てもお分かりであろう。どうも、この監督なり製作者なりは、商業性、すなわち観客へのアッピールを高めたいがためにこうやってVigoの人生をそれこそ「絵に描いた」ようなものにしてしまったのではないかと邪推してしまう。映画史における常識でありまた本作品で描かれたように、Vigoの作品、例えばその唯一の長編であるL'Atalanteが彼の意志通り(ホントなのかな?)に上映されるまでに50年以上かかってしまったというような事実を考えるに、余りにも整理され過ぎた本作品のVigoの人生史は、単純に商業性を考えたものなのか、あるいはそれを考えざるを得ない「映画製作」という行為のある種の難しさ、つまりは表現体としての自由度のなさに対する諦念のようなものの表明なのか、どちらなのだろうかと考えてしまった。
こうやってややボロクソに語ってしまったのだが、映画自体の出来はとても良いのである。映像も美しいし、なんといっても凝りに凝ったカメラ・ワークが素晴らしい。上記の如く、良くまとまっていることが欠点、というのは作者に対しての実は最大限の賛辞かも知れない。まあ、それはともかくとして、前々から疑問だったのだけれど、何故短編数本と長編一本しか残していないJean Vigoが、最近の映画人、映画評論家達によってここまで賛美されなければならないのかが私にはよく分からないのである。本作品もまた、「創られたVigo像」の普及に貢献すること多大であることは間違いないのである。(1998/08/14)