候孝賢監督作品 『百年恋歌』 2007.04(2005)
台湾の映画監督・候孝賢(ホウ・シャオシェン)による、2005年に作られて翌年に日本公開された映画である。原題は『最高的時光』。1980年代から90年代初頭というちょうど日本がバブル期だった頃に極めて秀逸な作品を作っていたこの尊敬すべき映画作家が、辛亥革命の年である1911年、文化大革命の年である1966年、そしてこの映画が作られた年である2005年の台湾を舞台に、同じ女優(舒淇:スー・チー)と俳優(張震:チャン・チェン)を主人公に据えてオムニバス形式で綴った、〈三つの時代それぞれの恋の形〉、と言ったような作品になっている。
実のところ上に記した時期以降この人の映画からは離れてしまった私なのだが、この10月に台湾に行く関係もあり予習・復習の意味で続けて観た同じくスー・チーを主演に据え台北と夕張を舞台としていた2001年の作品『ミレニアム・マンボ』(原題『千禧曼波』)といい、端的に日本、というより小津安二郎生誕10周年記念作品ということもあって東京を舞台とした一青窈(一発変換ですな。ちなみに共演は浅野忠信。)主演で作られた2003年作品の『珈琲時光』といい、扱っているテーマが劇的に変化しているのは別にしても基本的な演出法や画面構成などはやはりこの人ならではのもので、その辺には懐かしさすら覚えたのであった。
さてさて、2005年に創られたこの長大な作品は、私見では候監督の原点回帰にして集大成とも言うべき内容を持っているのだが、それは中国との緊迫した関係が背景にあるとは言え60年代オールディーズが良い味を醸し出している基本的には青春ものの第1部「恋の夢」、無声映画の形式を持ち辛亥革命(台湾=中華民国はここから始まる。)に向かう社会情勢が大きな影を落としている第2部「自由の夢」、今日の台北若者文化を描いている最近の候作品に似て政治的な部分が極めて希薄に思える第3部「青春の夢」という三つのパートが、それぞれ同監督のデビュウから1980年代中盤まで、1980年代後半から90年代前半、90年代後半から今日までという、三つの時期の作風をそのままなぞっているように思われるからである。
そんなわけで、候孝賢作品の全てを凝縮していると同時に、それ故にでもあるのだが台湾の歴史をもある視点から集約していることになるこの作品、取り敢えずは台湾ないしは候監督入門編として、はたまた応用編としても、じっくりと味わっていただきたいと思う次第である。以上。(2007/09/05)