Tim Burton監督作品 『アリス・イン・ワンダーランド』
ご存じティム・バートン(Tim Burton)監督によるファンタジィ映画。制作はウォルト・ディズニィ。主演のアリスにオーストラリア生まれの新星ミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)を抜擢。バートン映画の常連ジョニー・デップ(Johnny Depp)をマッド・ハッター役に、同じく常連でバートンの妻でもあるヘレナ・ボナム=カーター(Helena Bonham Carter)をレッド・クィーン役に、また、アン・ハサウェイ(Anne Hathaway)をホワイト・クィーン役に起用。ルイス・キャロル(Lewis Carroll)の原作に基づいたオリジナルなストーリィを新たに書き起こし、潤沢な資金の元に実写とモーション・キャプチャ技術をミックスさせた超大作。3D版も上映されているのだが、当然こっちで鑑賞。でも、果たしてそれほどの意味があったのかについてはやや疑問、ではある。
あの冒険から13年後のお話。とあるパーティでどこかの貴族から求婚されるアリスが、これに困惑して逃げ出すところから物語は動き出す。チョッキを着た白ウサギを追って再び不思議の国へと迷い込んだアリスを待っていたのは、レッド・クィーンによる暴政に苦しむ住民達。彼らから自分が予言書に記された救世主ではないかと示唆されたアリスは、ホワイト・クィーン等の庇護を受け、レッド・クィーンに戦いを挑むことになる。果たして不思議の国の、そしてまたアリス自身の運命は、というお話。
取り敢えずは、いかにもバートンなアート・ディレクションとメイクアップ等々には確かに目を瞠らされた。思うに、ファンタジィ映画の大家であるバートンはそもそもキャロルなどが作り上げたロジカルでシニカルな世界構成法を踏襲しているのだから、これはうってつけな素材。一応、バートらしさ、と言えるものが全面ではないけれど端々に出ているので、余りにも大味なストーリィや、やや浅いテーマの掘り下げ、というかテーマの不在もそれほどは気にならなかった。
そうそう、それほど気にならなかったとは言っても少しは気になったので書いておくと、実のところ、ディズニィ・サイドも、そしてまたバートン自身も凄く悩んだのではないかと思うのだ。キャロル+バートンでそのままやってしまうとアート系に寄りすぎてしまうのは間違いない。でもお金をかける以上は興行収入も上げないといけない。悩み抜いた挙げ句に、どちらかと言えば興収を上げる方向に作品が傾いているのは間違いなくて、ストーリィの膨らみ、悪く言えば冗長性を減じ、ディテイルの書き込みや一見無駄なシーンを相当省いてしまった結果として、上で書いたようなやや大味な作品になっていることは否めない。要するに、この映画、例えば宮崎駿やジェイムズ・キャメロンが造ってしまったような、一般にも受けて、それでいてキチンと作家性も示せているような幾つかの作品(『もののけ姫』や『ターミネーター2』のような。)、そういうものにはなり得ていないと、思う。以上。(2010/06/19)