Davis Guggenheim監督作品 An Incovenient Truth 2007.07(2006)
元アメリカ合州国副大統領であるアルバート・ゴア(Albert Gore)氏が長年行なってきた地球温暖化問題についての啓蒙的な講演会の模様及びその中身を中心に、彼の生い立ちや新たなデータ・映像資料などを外挿しながら構成された、この春のアカデミー賞で長編ドキュメンタリ映画賞に輝いたドキュメンタリ・フィルム。DVD版には更に、映画公開後に明らかになった事柄についてゴア氏自身が語る「映画で明かされなかった新たなる真実」という特典も付け加えられている。ゴア氏はその長年の活動によって世界を地球温暖化問題に注目させた功績でつい先頃ノーベル平和賞を受けているが、まさに継続は力なり。この点は声を大にして言いたいところなのである。
さてさて、この映画やゴア氏による本(タイトル同じ。日本語版は2007年刊、枝廣淳子訳、ランダムハウス講談社)の中で扱われている事例や数字に関しての批判が方々から出ているものの(この問題に関する論争のまとめは例えばWikipediaのAn Inconvenient Truthにあるのでご一読を。)、ここ数年肌で感じられるほどになったように思う地球温暖化の深刻さを、さまざまな映像資料やグラフなどを駆使してうまく表現出来ていると思った次第。
ところで、確かにその深刻さをうまく伝え得ているところも重要なのだけれど、ごく個人的には、ゴア氏がこの映画の中でしている、地球温暖化問題は政治の問題である、という主張にこそより大きな意味があると考えた。それは要するに、政治が動かなければそれは「問題」化すらされないのだし(アメリカでは長らくそうであった。)、個々人の努力も大事であるとは言いいながらも、本格的で抜本的な対策に向けてこの世界を動かし得るものはと言えばそれは結局のところ政治なのである。
最後に、映画としての出来映えについて一言。脚色や感傷的表現みたいなものを極力減らすことでその主張をより明瞭にさせたい気持ちも理解出来るのだが、どうもこの1時間半ほどのフィルムを眺めていると、そういう夾雑物を廃したために何だか資料集を読まされているような気分に陥ったのだった。これなら、本=テクストを読めば済む話だし、その方が情報は正確に吸収出来る。映画である以上は、何かしらテクストとは違うところを期待するのが受け手側なのだから、そういう配慮の無さには「ちょっと違うんじゃないか」という感想を抱かざるを得ないのである。と言って、ドキュメンタリ・フィルム界に新たなスタンダードを作ってしまった感があるマイケル・ムーア(Michael Moore)氏の作品が余りにも素晴らしすぎるのが問題と言えば問題なのだが…。以上。(2007/12/26)