綾辻行人著『Another』角川書店、2009.10

「このミステリーがすごい!2010年版」第3位、「2010本格ミステリ・ベスト10」第3位、「文春ミステリーベスト10 2009年」第4位という、ちょっと微妙な、それでいて確固たる評価を得た、綾辻行人による1,000枚超の大作である。ちなみに、惜しくも受賞を逃したが、第10回本格ミステリ大賞の最終候補作にも挙げられていたことを述べておきたい。
舞台は夜見山という曰くありげな地名の町。時は1998年。同地にある夜見山北中学3年3組に転校してきた榊原恒一は、どこか張り詰めたようなクラスの雰囲気に不審を抱く。恒一は、片目に眼帯をつけていつも一人絵を描いている美少女ミサキ・メイの存在を気にとめるが、クラスメイトたちは、そんな生徒はいない、といった風。これはある種のイジメなのか?そんな不穏な空気が支配する中で、メイと次第に接近していく恒一だったが、やがてクラス委員の桜木ゆかりが壮絶な死を遂げ、そこから死の連鎖が始まることに。このクラスには一体何が、そしてまた、夜見山中学校、あるいは夜見山には一体どんな秘密があるのか。それを解明すべく、恒一とメイは協力し合いながら調査を進めていくが、そこには恐るべき事実が隠されていて、というお話。
なるべく全貌を収めるような要約をしようとして、改めてそれが無理なことに気づいたのだが、長いだけでなくて、かなり複雑な展開、構成を持つ作品である。上に書いているのはあくまでもさわりに過ぎない。都市伝説、学校の怪談のようなものが基本的なモティーフとしてあって、それが非常に独自な形に加工されていて、そこに今なお話題豊富なアニメーション作品を踏襲するかのように転校少年と薄倖で身体の弱そうな美少女という組み合わせによる恋愛譚が重ねられる、という趣向。長くて複雑なことは確かだけれど、さすがにそこは手練れの作家、広がりに広がり、膨張に膨張を重ねた謎と恐怖を終盤に至って収束・収縮させる手際は誠に見事なもの。高い評価も頷けた次第である。
以下、やや蛇足になるけれど、実は、本当は物凄く後味の悪い終わり方な筈なのに妙に風通しが良さそうな雰囲気が醸し出されていて、そのこと自体が怖かったのだが、そんなところ以外でも様々に深読みも可能な作品だと思う。特に、著者が最も力を入れたのは実はメイの人物造形ではないかと思っているのだが、その生い立ちや境遇、家の生業などにこの作家らしいこだわりを感じた次第。
また、著者によるあとがきにも書かれているように、本書のタイトルはトマス・トライオン(Thomas Tryon。脚本家。この人、『史上最大の作戦』なんてものも書いてたりします。)原作、ロバート・マリガン(Robert Mulligan。代表作は『アラバマ物語』かな。)監督の『悪を呼ぶ少年』(原題The Other。1972)と、アレハンドロ・アメナバール(Alejandro Amenábar)監督の『アザーズ』(原題The Others。2001)から来ているとのこと。後者は最近の映画なのですぐに観られると思うのだが、前者は入手困難な模様。実は、大変な傑作、というか、私も含めて結構色々な人が言及している作品なので是非DVDかBlu-rayで出して欲しいな、と思っている作品の一つなのである。以上。(2010/06/24)