Alejandro González IÑárritu監督作品 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
メキシコ出身の天才映画作家アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(Alejandro González IÑárritu)による、本年のアカデミー賞で4部門(作品、監督、脚本、撮影)を制覇した超話題作、である。原題は Birdman: Or (The Unexpected Virtue of Ignorance) (2014)。以下概略と感想などを。
主人公のリーガン(マイケル・キートン Michael Keaton)はかつて「バードマン」というヒーロー役で一世を風靡したものの、今は落ちぶれた云わば「元ヒーロー」なだけのしがない中年。そんな彼が、捲土重来を期してブロードウェイで舞台俳優として、演出家として転身を図っている、というのが基本的なセッティング。
そんなことを背景として、映画では、レイモンド・カーヴァー(Raymond Carver)の短編、「愛について語るときに我々の語ること」をベースにした舞台劇の、プレヴュウの前日から本公演までの4日間の模様が描かれる。
ついに全てを失うかも知れない、というすさまじいプレッシャーと、薬物依存症の娘やその母でもある元妻、あるいは現在の恋人らが織りなす複雑な人間関係のはざまで次第に狂気を帯びていくリーガンに、果たして明日はくるのか、というお話。
さて、この見事な作品、特筆すべき点は多々あるのだが、中でも配役として、元バットマンとは言え基本的には性格俳優であるキートンを筆頭に、リーガンの娘に新星エマ・ストーン(Emma Stone)を起用した他、エドワード・ノートン(Edward Norton)、ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)、アンドレア・ルイーズ・ライズボロー(Andrea Louise Riseborough)といった新旧の芸達者極まりない名優達を揃えている点に言及しないわけにはいかない。実に壮観。各々の演技はいやはや見事なものだ。男優賞・女優賞なし、というのが実は信じがたいところでもある。
加えて二つ。まずはサウンドトラック。劇中、一貫してドラムの音が鳴り続けているのだが、叩いているのはアントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)という人。実際のところ、映画を観てから数日間これが頭の中を流れっぱなしだった。これに加えてしばしば流れるC.ラフマニノフ、P.チャイコフスキー、G.マーラー等々のなんとも言えない抒情性というか煽情性というか。このあたり、誠に、イニャリトゥのセンスには舌を巻く他はない。
もう一つは全く切れ目のない、キャメラ・ワーク。最初から最後まで、ほぼ繋がっている。一体どうやったんだ、という感じなのだが、撮影監督は『ゼロ・グラヴィティ』で知られるエマニュエル・ルベツキ(Antonio Sanchez)という人。これをもってアカデミー賞は当然、という感じなのだが、さぞや大変だったことだろう。
他にも、やはりアカデミー賞に輝いた脚本もそれはそれは素晴らしいものだし、全てをまとめ上げた監督の力量も驚嘆すべきもの。このような具合に、本当に優れた役者陣と、そしてまた各分野において傑出した才能を持ったスタッフが結集し、真に見ごたえのある、心にズシンと響く、そしてまた映画史に名を残すのではないかとさえ思う偉大な傑作を生みだしてしまった、とまとめておくことにするが、要するに、これは必見である。以上。(2015/04/17)