Darren Aronofsky監督作品 『ブラックスワン』
未見だけれど、前作The Wrestler(2008)の評価が非常に高かったダレン・アロノフスキ監督による、ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)を主役に据えたサイコ・スリラ、あるいはサスペンスである。ご存じのようにポートマンは先だってのゴールデングローブ賞とアカデミー賞で主演女優賞を受賞。アカデミー賞では他にも監督賞、作品賞など4部門にノミネート、というようなこれまた極めて高い評価を受けた作品、ということになる。
まずは概略を。ポートマン演じるニナはバレリーナ。母親による庇護と監視の元、ニューヨークのバレエ・カンパニに所属する彼女は、ヴァンサン・カッセル(Vincent Cassel)が演じる振り付け師トマスによる新演出版『白鳥の湖』の主役の座を射止める。どちらかと言えば優等生タイプのニナは、トマスが厳しく要求する黒鳥の官能的な舞踊がどうしても出来ず悩む。やがてミラ・クニス(Mila Kunis)が演じるリリーというライバルが出現し、主役の座が揺らぐ中、ニナは精神的に追い詰められていき、やがて、というお話。
要するにこの作品では、『白鳥の湖』に登場する、一人二役で演じられる白鳥と黒鳥というキャラクタを、人間、あるいは女性が持つ二面性に置き換え、そこを物語の支点として人の心の闇をえぐるかのようなサイコ・スリラに仕立て上げているのだが、実に見事な翻案にして、同時にまたオリジナリティの高い優れた脚本だと思う。
実は始めの方のシーンで、トマスの部屋にロールシャハ・テストの絵が掛かっていて、あたかも大きな鳥の羽根のように見えるシーンがあるのだが、こういうところにさりげなく表示されているようにこの映画は徹頭徹尾精神分析的。それも、非常に古典的なフロイディズムを体現していると思う。鏡の多用も非常に面白くて、そのあたりも非常に精神分析的である。
さて、そういう部分も面白いのだが、この映画、大半の方がそう感じるのだと思うのだが、悩み多きバレリーナが次第に追い詰められていく様を演じつつ、途方もないトレーニングを積んでどこからが吹き替えなのか良く分からないくらいに踊りまくっているポートマンの女優あるいは表現者としての生き方自体に感銘を覚えてしまった。彼女の演技っぷりはその子役時代から見てきているけれど、まだ伸びシロがあったのか、と驚いた次第。これは、私自身の人生の糧にしたいと思う。以上。(2011/06/25)