宮部みゆき著『誰か Somebody』文春文庫、2007.12(2003)

宮部みゆきによる、杉村三郎もの長編ミステリの第1弾。実業之日本社から単行本で出て、2005年に光文社で新書版が出て、この度は文藝春秋での文庫化となった。解説は杉浦松恋。ちなみに、杉村三郎ものは既に第2弾『名もなき毒』が幻冬舎から刊行されている。
義父が経営するコンツェルンの広報室で働く杉村三郎は、交通事故で死亡した義父の運転手・梶田信夫の娘たちの依頼により、梶田信夫の伝記を書くための情報収集を開始する。やがて、杉村の前には、調査を開始する以前には思いもよらなかった梶田信夫という人物の別の顔が現われてくる…。一体、梶田信夫とは何者なのか、そして、ことの起こりとなった交通事故の真相とは、というお話。
雰囲気はソフトな感じだけれど、書かれていることはかなりヘヴィかつビター。ハードボイルドという体裁をとっていないけれど、かなりそういう作品群に近いテイストが感じられた。この作家の、ディテイルの積み上げ方や、一気に読ませるテクニックはさすがとしか言いようがない。直木賞作家による、ある意味新境地ともいうべき佳品である。以上。(2007/12/20)

David Brin著 酒井昭伸訳『キルン・ピープル 上・下』ハヤカワ文庫、2007.08(2002)

この夏に世界SF大会@横浜のために来日していた、それはそれは数多くの傑作を世に送り出してきたSF作家デイヴィッド・ブリンの現時点での最新長編。上下2冊で計1,000頁を超える大長編になっている。まあ、この作家について言えばいつものことではあるのだが…。
話の舞台は近未来のアメリカ、というか地球。土をこねて整形し、そこに意識をコピーする技術=ゴーレム作成技術が確立している、という設定。そんな中で、ある日ゴーレム産業界における超大手企業を技術面で支えてきた研究者が失踪。その捜索を依頼された主人公の私立探偵アルバート・モリスが、自分自身及び自分のゴーレムを駆使して捜査を開始。果たして失踪事件の真相やいかに、というもの。
この稀代のストーリィ・テラーである作家が得意とする、視点を幾つかに分けて記述していってやがてはそれを統合していくという叙述形式をとっているのだけれど、その出来映えはと言えばそれはそれは見事なもの。本書の場合だと、視点がモリス本人とその分身であるゴーレム数体になる、というわけなのだが、そんな具合に技術的な設定と叙述法のマッチングが偶然なのかあるいは極めて意識的になのかは不明なのだけれど実にうまくいっている、というより完璧に機能している、と思った次第。思わず、これは書いていてとても楽しかったんではないかな、と邪推してしまう。以上。(2007/12/23)