二階堂黎人著『誘拐犯の不思議』光文社文庫、2013.01(2010)

二階堂黎人による、水乃サトルもの長編にして、大学生編にあたる「不思議シリーズ」第5弾を文庫化したもの、である。解説は鏑木蓮が担当している。
心霊写真家・上祐レイが取り出した写真を見た水乃サトルの恋人・二之宮彩子は、十ヶ月ほど前に自らが被害者となった、身代金を目的とした誘拐事件の顛末を語り始める。彼女は無事救出され、事態は収束したが、結局のところ犯人はみつからず、未解決のまま。捜査に乗り出したサトルは、真犯人によって完璧に構築されたアリバイの前に立ち尽くすことになるのだが…、というお話。
アリバイ・トリックもので、良くも悪くも本格推理小説の体裁はとられている。ただ、二階堂氏の作品には割と当たり外れがあるように思うのだが、これなどは外れの部類かな、と。
キャラクタ小説、として読めばそれなりに良いのかも知れないが、じゃあ対象読者としてどの辺を想定しているのか?、という疑問がわいてくる。妙にグロいところもあるし。中途半端な作品は、正直勘弁、なのである。以上。(2013/03/28)

道尾秀介著『球体の蛇』角川文庫、2012.12(2009)

ご存じ道尾秀介による、「十二支シリーズ」に含まれる、第142回直木賞候補となった傑作長編の文庫化である。周知のように、同作家は『月と蟹』により第144回直木賞を受賞しているのだが、この作品はそれとほぼ同じ時期、つまりは非常に質の高い作品を矢継ぎ早に刊行していた時期に書かれたものの一つ、ということになる。
両親の離婚により、17歳の高校生・友彦は、シロアリ駆除業を営む隣人である乙太郎とその娘のナオ親子のもとで居候の身。実は、乙太郎の妻と長女のサヨは7年前にとある事故により焼死していたのだが、友彦のサヨへの憧れは募るばかりだった。ある日のこと、友彦はシロアリの駆除を頼まれたとある男の家に、サヨに良く似た若い女性が出入りしていることを知る。うしろめたさを感じつつも、衝動に駆られた友彦は夜な夜な男の家の床下に潜んで二人の営みを盗み聞くようになるのだが、やがて大事件が。というお話。
必ずしも悪意を持ってなされたものとは言い得ないような嘘によって絶妙なバランスを保っている日常。それは、ちょっとした刺激によって大きく揺れ動き、あっという間に瓦解してしまう可能性を孕むものでもある。そんな、この世界の危うさとともに、それでも生きていく他はない人間存在というものの儚さ、あるいは逆にそれに抗おうとする強さ、といったものを独特な筆致で謳い上げたヒューマン・ドラマになっていると思う。
さてさて、そんなこの作品、テーマの掘り下げや人物造形、あるいはプロット構成などの点で非常にすぐれた作品であることは間違いなく、確かにどなたにも勧められるものではあるのだが、唯一欠点らしき部分として挙げられるのは、全編においてやや偶然が重なりすぎている点だろうか。実のところ、その点が見事な形で解消されている、『月と蟹』をもってとうとう直木賞が、というのは、何となく頷けてしまうのである。以上。(2013/03/28)

フィリップ・K・ディック著 佐藤龍雄訳『空間亀裂』創元SF文庫、2013.02(1966)

アメリカの作家フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)による、SF長編である。日本語初訳。原題はThe Crack in Space。翻訳担当は佐藤龍雄、となる。
時は西暦2080年、米国大統領選挙戦の最中。超高速移動機の内部で発見された亀裂は、異世界への扉だった。史上初の黒人大統領を目指すジム・ブリスキンは、人口爆発への対策として、異世界への移住計画をその主要政策として打ち出す。しかし、「異世界」への移住には、大きな障害が存在することが発覚。ブリスキンらは、世界の根幹を揺るがしかねない事態を何とか収拾しようと画策するが…、というお話。
基本的には生計を立てるために物凄いスピードで書かれたのであろう作品なのだけれど、そこはディック。核危機、中絶問題、人種問題等々の当時の世界が抱えていた懸案事項をふんだんに織り交ぜ、個性的すぎる異形のトリックスターを創造してみせ、そして過剰なまでの多視点技法を採用するあたりに、この作家の矜持を感じる。確かに、傑作ではない、のだけれど、何ともバロック的な、禍々しい魅力に満ちた作品である。以上。(2013/04/01)

桜庭一樹著『製鉄天使』創元推理文庫、2012.11(2009)

日本推理作家協会賞を受賞した『赤朽葉家の伝説』からのスピンオフにして、各方面から絶賛を浴びた青春小説の文庫化である。英語タイトルはThe Iron Angel。日本語タイトルも勿論なのだが、この英語タイトル、何ともカッコいい。
主人公は『赤朽葉家』にも登場していた、というよりは主役の一人ですらあった赤朽葉毛毬(あかくちば・けまり)。ただし、本書では赤緑豆小豆(あかみどりまめ・あずき)と表記される。本編でも毛毬(=小豆)の壊れっぷり、暴走っぷりはそれなりに描かれていたわけだが、こちらではそれのみが、かなり形を変えて描かれる。
時は1980年代、鳥取県下にあるという製鉄会社の長女として生まれた小豆は、鉄を自由自在に操る、という特殊な能力を授かっていた。戦いに明け暮れる日々を送るうち、いつしか彼女は、レディース・チーム〈製鉄天使〉の初代総長として、中国地方制圧を企てることになるのだった。その野望の果てには何があるのか、という物語。
本編は大河ドラマにして大がかりな本格ミステリになっていたけれど、こちらは基本的に青春小説であり伝記小説。そんな様式をとりつつ、1980年代の雰囲気を過剰なまでに搭載し、娯楽小説に必要なあらゆる要素をこれでもかという位に動員した、一大傑作である。以上。(2013/04/09)

今野敏著『初陣 隠蔽捜査3.5』新潮文庫、2013.02(2010)

今や警察小説界の押しも押されぬ重鎮となった今野敏による、際立つキャラクタ造形で人気の「隠蔽捜査」シリーズ初のスピンオフ短編集、である。単行本は2010年刊。このシリーズの主役は基本的に堅物というか正論警察官である竜崎信也だが、本書では竜崎の幼馴染にして同期、そして対照的に柔軟思考派の伊丹俊太郎が基本的に主役を執る。そんな、長編では描かれていない伊丹の様々な面が垣間見える、何ともサーヴィス精神満点な作品になっている。
収録作は計8本。全て時系列で並べられている。1.「指揮」は伊丹が福島県警から警視庁に異動になった時点での、とある殺人事件の処理を巡るお話。2.「初陣」は警察内部での裏金疑惑とその処理を巡るお話。3.「休暇」は伊丹が多忙な中温泉旅行に出かけるお話。4.「懲戒」は警察官による選挙違反のもみ消し疑惑を巡って伊丹が悩むお話。5.「病欠」は伊丹がインフルエンザにかかってしまうお話。6.「冤罪」では放火事件を巡ってのタイトル通りの事態が描かれるお話。7.「試練」は『疑心 隠蔽捜査3』の知られざる裏話。8.「静観」は竜崎が伊丹からみれば「大ピンチ」に陥るお話。そんな具合。
個々の短編の作り方というのはほとんど一貫しているのだけれど、それでもなお読者を決して飽きさせない、どんどん次が読みたくなる作劇力というのは、やはりこの作家が只者ではないことを物語る。ところで、竜崎・伊丹コンビの活躍はまだまだ続く、と思われる。この先二人の前にはどんな事態が立ち現われ、それに彼らはどう対処していくのか。シリーズの今後にも大いに期待したいと思う。以上。(2013/04/15)

東浩紀著『クォンタム・ファミリーズ』河出文庫、2013.02(2009)

どちらかというと評論家として知られる東浩紀(あずま・ひろき)が書いた三島由紀夫賞受賞のSF小説である。元々は『新潮』に掲載。単行本は2009年刊。そしてこのたびの文庫化、となる。解説は筒井康隆が担当している。
人生の折り返し地点、35歳の「ぼく」に、未来である2035年にいる「娘」から届いたメールがすべての始まりだった。ぼくは娘に導かれて、新しい人生に足を踏み入れる。家族のきずなを失った量子家族による、並行世界を往還する奇妙な冒険の果てに待つものは…、というお話。
ある意味デビュウ作のようなものだと思うのだけれど、今日における格好のテーマをうまいこと小説に仕立て上げたな、というのが第一印象。若干ついていけないところがあったのも事実なのだが、どんどん膨らんでいく構想を、なんとかまとめ上げた、というところだろうか。
粗削りだったり、冗長だったり、整理不足だったりするところも多々あるけれど、とても野心的だし、今日のSF小説がこの程度であるべき、というところには間違いなく到達しているように思う。以上。(2013/04/17)

首藤瓜於著『刑事のはらわた』講談社文庫、2013.02(2010)

『脳男』シリーズなどで知られる作家・首藤瓜於(しゅどう・うりお)による、2010年発表の長編文庫版である。この前に『刑事の墓場』(2006)という作品が上梓されているので、一応「刑事の」シリーズあるいは連作なのではないかと思う。ただし、中身は愛宕(おたぎ)市が関わること以外は無関係である。
幹部から認められ、所轄の盗犯刑事から県警本部へと引き上げられた若き警部・八神。畑違いの鑑識課で、百戦錬磨のベテラン班員を率いて緊張の日々を送る。そんなある日、愛宕港で引き揚げられた死体は、窃盗犯で5か月前に出所したばかりの男だった。八神がその身辺を洗い出すと、とある金塊盗難事件との関わりがあらわになり始めるのだが…、というお話。
ジャンルを広げよう、という野心に満ちた作品だと思う。タイトルから明らかなように鑑識ものなのだけれど、良くぞ調べた、という感じの仕上がり。「刑事の」シリーズの今後がどうなっていくのか、非常に楽しみである。以上。(2013/04/20)

化野燐著『迷異家(まよいが) 人工憑霊蠱猫(こねこ)』講談社文庫、2013.01(2009)

化野燐による「人工憑霊蠱猫」シリーズの第8巻にして、現時点での最新刊である。オリジナル刊行が2009年だから、かれこれ4年近く新作が上梓されていないことになる。まさかこれで終わり、であるはずがないのだが、ちょっと色々な面で心配だったり、残念だったりする。シリーズの再開を強く望む次第。
有鬼派による陰謀が渦巻く中、ついに美袋玄山研究所は大火災に見舞われる。有鬼派の攻勢に対して必死の抗いを見せるアンチ有鬼派だったが、戦いで重傷を負った白澤の使役者・白石優は遠野の地にある某所にかくまわれることになる。あくまでも闘争を続けようとする蠱猫の使役者・美袋小夜子は、白石の危難を聴き遠野の地へと向かう。敵と味方が入り乱れ、事態がいよいよ混沌の様相を示していく中で、小夜子等は果たして有鬼派の野望を阻止できるのか、あるいは?、というお話。
物語の舞台はとうとう民俗学の聖地である遠野へと。柳田国男や宮沢賢治までもが介入する展開には度肝をぬかれたが、シリーズはある必然性を持ってこの場所へと誘われた、とも言いうるだろう。妖怪の起源、とは言ってみれば妖怪現象についての解釈の起源、に他ならないのだから。
ここまでやってしまえば、確かにここから先を続けるのは困難なことであるのかも知れない。しかし、いまだ書かれていない物語の行く末に気をもむ者は私だけではないだろう。一体どんな場所に誘っていただけるのか、次作には大いに期待したいと思う。以上。(2013/04/23)

浦賀和宏著『眠りの牢獄』講談社文庫、2013.03(2001)

『記憶の果て』(1998)や『彼女は存在しない』(2001)などで知られる作家・浦賀和宏による、2001年発表の長編文庫版である。元々は講談社ノベルスに入っていたもので、文庫化は初。実に12年を経て、ということになる。
階段から落ちて昏睡状態になってしまった浦賀の恋人・亜矢子。それから5年、浦賀は、亜矢子の兄に呼び出され、友人の北澤・吉野とともに核シェルタに閉じ込められてしまう。そこから出る条件は彼女を突き落とした事実を告白することだった。それと同時に、シェルタの外では完全犯罪計画がメール交換によって進行していたが…、というお話。
本書の5か月前に刊行された『彼女は存在しない』にも「亜矢子」という人物が登場するので、ある程度まではセットと考えた方が良いかも知れない。実際のところ、どちらから読んでも大丈夫、ではある。
コンパクトな作品(230ページほど)であるけれど、逆に冗長なところがほとんどなくて、この作家らしい仕掛けを存分に楽しめる作品になっていると思う。こういう優れた作品を埋もれさせていたのは何なのか、版元も読者も、一度考えないといけないのかも知れない。以上。(2013/04/30)

浦賀和宏著『彼女の血が溶けてゆく』幻冬舎文庫、2013.03

『記憶の果て』(1998)や『彼女は存在しない』(2001)などで知られる作家・浦賀和宏による、書き下ろし長編である。「彼女は」シリーズかと思いきや、基本的に無関係、に思える。
ライタの桑原銀次郎は、元妻の聡美が引き起こした医療ミス事件の真相を探ることになった。患者の女性は、何らかの原因で自然に血が溶けていく溶血症を発症、治療の甲斐なく死亡した、という。死因を探るうちに次々と明かされる、驚愕の真実と張り巡らされた数々の罠。銀次郎は、果たしてすべての真相を明らかにすることが出来るのか、というお話。
医療ミステリ、ということになるのだろう。海堂尊という極めて優れた書き手がいるこのジャンルで真っ向勝負はかなり難しいところもあるとは思うのだけれど、そこはさすがにこの著者である。巧みかつ意表を突いたプロットさばきで、最後まで楽しませてくれる。続きがありそうな、著者の新境地を示す作品である。以上。(2013/05/10)

伊坂幸太郎著『バイバイ、ブラックバード』双葉文庫、2013.03(2010)

千葉県出身の作家・伊坂幸太郎による、一応連作短編集という風に読むことができるコメディ。元々は「ゆうびん小説」という名の企画のために書かれた作品なのだが、これ、要するに50人の選ばれた読者たちに不定期に送り届けられる短編小説群、という体裁であったらしい。これを一冊にまとめた単行本は2010年刊。このたびの文庫化にあたり、巻末には著者へのロング・インタヴュウが付されている。
星野一彦の望みは、〈あのバス〉で連れていかれる前にせめて5人の恋人たちに別れの挨拶をすること、だった。星野の道行に付き添うのはプロレスラのような巨体と毒舌を誇る女・繭美。繭美を含めて計6人の実に多種多様な女たちとの出会いと別れが、ユーモアと哀しみをもって綴られていく。そんな、何とも味わい深い小説である。
元ネタは勿論太宰治によるあの作品なのだが、まあ、何とも鮮やかな換骨奪胎ぶりである。確実に太宰治の遺伝子を受け継いでいると言える伊坂幸太郎による、適度な軽さとスピードを持つ文体で綴られた、パロディ精神とアイロニィに満ちた会心作である。以上。(2013/05/15)

井上夢人著『魔法使いの弟子たち 上・下』講談社文庫、2013.04(2010)

コンビ解消後も良質な作品を次々に発表してきた井上夢人による、大長編文庫版である。元々は『小説現代』に連載されていたもので、文庫化にあたって上下2分冊となった。解説は大森望が担当している。
山梨県内で発生した、致死率100パーセント近い新型の感染症=「竜脳炎」。週刊誌記者の仲屋京介も、取材中にこれに感染する。やがて生還者のウィルスから有効なワクチンが作られ拡大は阻止されたが、発生当初の感染者で意識が戻ったのは、京介、落合めぐみ、興津繁の計3名だけだった。
終息後も病院内での隔離生活を続ける彼ら三名は、「後遺症」として不思議な能力を身につけていることに気づく。その能力はメディアの注目を集め、TVの取材中に謎の死者が出てしまう。容疑者となった彼らは、必死の逃亡を開始するが…、というお話。
本当に外れのない作家というのも稀有だと思うのだけれど、この人などはその一人で、代表格とも言えるかも知れない。高いリーダビリティ、良く練られたプロット、見事な人物造形はいつもの通り。読みだしたら止まらない、空前のエンターテインメント作品に仕上がっていると思う。以上。(2013/05/20)

麻耶雄嵩著『隻眼の少女』文春文庫、2013.03(2010)

寡作のミステリ作家・麻耶雄嵩による、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をW受賞した作品。2010年に文藝春秋社から単行本として出ていたものの文庫化となる。
舞台は信州の山村。とある理由で温泉宿に逗留していた大学生・種田静馬は、突如として起こった首切り殺人事件に遭遇する羽目になる。どうやら同地の旧家・琴折(ことさき)家の三つ子の長女・春菜が、何者かに殺されたらしい。その挙動不審振りから疑いをかけられてしまった静馬は、同じく同地に逗留中の隻眼の少女探偵・御陵(みささぎ)みかげの推理によって救われる。しかし、ホッとするのもつかの間、新たな事件が発生、事態は混迷を極めていくのだが、というお話。
いかにもこの作者らしい意表を突く展開、そしてまたこの作家にしてはやや珍しいタイプの名探偵の登場などなど、実に読みどころの多い作品で、その高い評価もうなずけた次第。山村に伝わる伝承や、代々巫女を排出してきたという琴折家の存在、といったような民俗学的意匠も実に巧みに作り込まれているのだけれど、そうしたある意味王道でオーソドックスな手法の健在ぶりと可能性を改めて示した傑作である。以上。(2013/05/24)

京極夏彦著『西巷説百物語』角川文庫、2013.03(2010)

偉大な作家の一人となり得てから久しい京極夏彦による、「巷説百物語」シリーズ最新刊の文庫版である。『後巷説百物語』によって直木賞を受賞したのに続き、本作で第24回柴田錬三郎賞を受賞したことにより、このシリーズの重要性は一段と高まった、とも言えるだろう。
収録された物語は7本。舞台はタイトルの通り西日本。個々のお話は、絵草子の版元を生業とする一文字屋仁蔵のもとに持ち込まれた難題が、御行の又市の知己である靄船(もやぶね)の林蔵による巧みな画策によって一つの解決に向かう、という枠組みを持つ。
「桂男」では娘の婚姻の裏にある何かに気づいた大商人の、「遺言幽霊 水乞幽霊」では目を覚ますと自分が父の店を継いだことになっている男の、「鍛冶が嬶 」では自分の嫁がオカシイといぶかる刀職人の、「夜楽屋」では芸に憑りつかれた人形遣いの、「溝出」では十年ほど前に疫病に襲われ壊滅しかけた村を守ってきた男の、「豆狸」では艱難辛苦の果てに酒屋を継いだ男の、「野狐」ではある男への復讐に全てを賭ける女の、妄執その他と、その末路や行く先を描く。
ところで、林蔵とは『前巷説百物語』の登場人物だが、他にも旧作から何人かが登場。そんなこんなで、これまでのシリーズと仄かなつながりがあって非常に愉しい。話の持って行き方というか、筆運びというか、あるいはまた妖怪との絡ませ方というか、その辺りの手練手管は相変わらず実に見事なもの。このシリーズ、このジャンルにおける金字塔的作品なのではないかと思う次第である。以上。(2013/05/28)