フィリップ・K・ディック著 佐藤龍雄訳『ヴァルカンの鉄槌』創元SF文庫、2015.06(1960)

亡くなって早くも33年になるアメリカの作家フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)による、最後のSF長編翻訳である。原題はValcan's Hammer。翻訳担当は佐藤龍雄、となる。
核戦争終結後の世界。人類は世界政府を樹立し、その統治を巨大コンピュータ〈ヴァルカン3号〉にゆだねる。一方、その全体主義的な統治のあり方に反発するフィールズ大使は、〈癒しの道〉という教団を率いて体制に対し反旗を翻す。〈ヴァルカン3号〉は、果たして人類の敵なのか、それとも…、というお話。
暴走する人工知能との戦いを描いた、ある意味で古き良きSF、というたたずまいの作品だけれど、そこはさすがにディック。「鉄槌」の意匠に端的に現れているのだけれど、恐らく統治・統制用のガジェットを考えさせたらこの人の右に出るものはいないだろう。それはそれは、凄まじい。
そんな、ヴィジュアル的にもかなり強烈なこの作品。多分執筆当時は考えもしなかったはずだけれど、映画化も不可能ではなくなったこの時代にこそ読まれるべきものなのかも知れない。以上。(2015/07/05)

皆川博子著『双頭のバビロン 上・下』創元推理文庫、2015.07(2012)

近年とみにクオリティの高い作品を上梓し続けている作家・皆川博子による、その作家生活40周年記念作品の文庫版である。文庫化にあたり上・下2分冊となり、石井千湖による簡潔な解説が付されている。カヴァのイラストは山本ゆり繪が担当。
19世紀末のウィーンで生まれた双子である、ゲオルクとユリアンは、運命的に引き裂かれ、全く異なる人生を歩むことになる。陸軍学校を経てハリウッドで映画制作を携わるようになるゲオルク。ボヘミアの廃城で世の中から孤絶して成長するユリアン。やがて1920年代になり、物語の舞台は上海へと移る。かの地にて再び邂逅するゲオルクとユリアン。二人の物語は、どう終息するのか、というお話。
凄い、という他はない小説。もしかしたら、これこそが小説、なのかも知れない。ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジア。三つの地域の、20世紀初頭という動乱の時代を活写しつつ、魅力的な造形の二人を主人公とする実に生き生きとしたドラマを作り上げている。プロット運びもさることながら、その巧みな筆致が醸し出す鬱屈した空気感も素晴らしい。40年という時間の重みを感じさせてくれる、偉大なる傑作である。以上。(2015/07/07)

浦賀和宏著『究極の純愛小説を、君に』徳間文庫、2015.06

『記憶の果て』(1998)や『こわれもの』(2002)などで知られる作家・浦賀和宏による、文庫書き下ろしの大長編である。計594ページ。帯にある通り確かに「一気読み!」してしまいそうなほどのリーダビリティと娯楽性、そしてまたこの作家ならではの屈折性に満ちた作品になっている。
富士樹海近くで合宿をしている高校生文芸部員達が次々と惨殺されていく。殺戮者の正体、そしてその目的は一体何なのか。この理不尽極まりない状況で、部員の一人・八木剛は、密かに思いを寄せる美優を守り通すことを決意する。だが、その思いも空しく美優は…、というお話。
2013年から開始された「桑原銀次郎」シリーズの長編が次々に刊行され(既刊3冊)、他にも『姫君よ、殺戮の海を渡れ』(2014)のように巨大な作品を書いているこの著者。ここ数年はまさに絶好調、というところなのだろうけれど、これもまたそんな中で書かれた、好調さを体現するような作品になっている。以上。(2015/07/10)

三津田信三著『幽女(ゆうじょ)の如き怨むもの』講談社文庫、2015.06(2012)

三津田信三による、「刀城言耶」もの第6長編の文庫版である。元本は原書房より刊行された。装画はおなじみの村田修。解説は皆川博子が担当している。日本推理作家協会賞の候補にあがった他、ミステリ・ランキングで軒並み上位を占めた作品で、特に早川書房の「ミステリが読みたい!」では堂々1位に輝いた。
時は昭和のはじめ頃。13歳の小畠桜子(おばた・さくらこ)は桃苑(ももぞの)という廓町(くるわまち)にある金瓶梅楼(きんぺいばいろう)に、遊女となるべく連れて来られる。3年の廓暮らしを経て花魁(おいらん)となり、「緋桜(ひざくら)」という源氏名を与えられた桜子は、ほんの数か月で2番目から3番目の稼ぎ頭になる。
そんな矢先、通小町(かよいこまち)という先輩の花魁が身投げをする。自殺の原因に疑問を持つ桜子。やがて桜子は、通小町の許婚と思われる男からの手紙を発見するのだが…、というお話。
これはあくまでも冒頭に過ぎない。話は4部構成で、戦前・戦中・戦後という三つの時代に及ぶ大河ドラマ的な仕立てになっている。ちょっとこれ以上は語れないのだが、これまで巻を追うごとに進化を遂げてきたこのシリーズ、遂にここまで来たか、という感じの出来栄えで、驚嘆を禁じえなかった。個人的には、この作家の現時点での最高傑作だと思う。以上。(2015/07/20)

伊坂幸太郎著『あるキング 完全版』新潮文庫、2015.05(2009→2012)

伊坂幸太郎による、野球をテーマにした長編小説の「完全版」、である。完全版である所以は以下の通り。まず、2008年から2009年にかけて『本とも』という雑誌に「あるキング」雑誌版が連載される。これをまとめて、2009年に徳間書店から単行本が出る。更に、2012年に徳間文庫で出る。で、これらが、全て本書に収められている、ということになる。
山田王求(おうく)は、天才バッター。弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた彼は、「王が求め、王に求められる」ように「王求」と名づけられ、やがては仙醍キングスに入団し、チームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。しかしてその成否は、というお話。
順番としては、マクベスをモティーフとしてあしらった単行本版、群像劇の雑誌版、ユーモラスな文庫版、という風に並ぶ。普通なら文庫版しか読まなかっただろうのに、他2ヴァージョンがこんなに面白いなんて…。伊坂幸太郎は全発表形態で読まないとダメなの?、とかちょっと鳥肌が立った次第である。まあ、そんなことはないと思うけれど…。以上。(2015/07/21)

首藤瓜於著『大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄(いじか・ますみ) 上・下』講談社文庫、2015.06(2012)

『脳男』などで知られる栃木県生まれの作家・首藤瓜於(しゅどう・うりお)による、2012年発表の長編文庫版である。元々は『IN★POCKET』に連載されていたもので、今回は上下2分冊での刊行となった。
時は昭和初期。養父(やぶ)秀三院長により愛宕(おたぎ)市に作られた日本初の専門精神科病院・芦沢病院が舞台。同病院に赴任したばかりの新米医師の使降醫(しぶり・いやす)は、そこで奇妙な患者たちに出会う。閉鎖病棟にいる「危険」だという謎の患者・黙狂、声帯模写の達人・足助、突然何かのスイッチで過去を克明に思い出す宙丸などなど…。
使降は、博覧強記の天才・面鏡真澄(いじか・ますみ)とともに謎の患者「黙狂」の正体を探り始めるが、謎は謎を呼び始める。病院幹部たちが絡んだ忌まわしい過去の事件とは、あるいは元クジラ捕りの患者・老鼠(おいそ)忠介が見た「幽霊烏賊」の正体とは何なのか。深まりゆく謎に、面鏡らはどのような解決をもたらすのか、というお話。
香山二三郎の解説を待つまでもなく、明らかに夢野久作の『ドグラマグラ』を下敷きにしている作品で、ある意味極めてチャレンジングなものとも言える。もう一つ言えば、愛宕市サーガ、とも言うべき作品群の一つにも入るのだろう。どこかシュールで、かつまた適度に知的好奇心を刺激してくれる、傑作である。以上。(2015/07/22)

グレッグ・イーガン著 山岸真訳『ゼンデギ』ハヤカワ文庫、2015.06(2010)

オーストラリア生まれの作家グレッグ・イーガン(Greg Egan)による、2010年発表のSF長編。タイトルの綴りは”ZENDEGI”で、訳者あとがきによれば、英語の”life”と同じ意味のペルシア語単語の発音をローマ字アルファベット表記したもの、とのことである。
ジャーナリストのマーティンは、イランにて歴史的な政権交代の場を目撃し、テクノロジが生み出すであろう輝きに満ちた未来を予感する。15年後、妻を事故で亡くし、余命を宣告されたマーティンは、ヴァーチュアル・リアリティ・システムである〈ゼンデギ〉の開発者ナシムに接近。その目的は、脳スキャン技術を用いてゼンデギ内にヴァーチュアル・マーティンを作り出し、死後も息子を導くことにあった。マーティンの目論見は果たして…、というお話。
この著者にしてはかなり現実に即したお話というか、もうすぐ出来そうな技術、を扱っていて、ある意味、敷居の低い作品、になっていると思う。死とは、あるいは、そもそも生命とは、という問いが物語のベースにあるので、必然的に宗教であるとか、哲学であるとか、そいうところへの言及も多い。そうなのだけれど、そうした思索的な部分と娯楽性のバランスは程よい感じで、感動的でさえある。著者の新境地を示す好編だと思う。以上。(2015/07/25)

冲方丁著『光圀伝 上・下』角川文庫、2015.06(2012)

このところ活躍がめざましい冲方丁(うぶかた・とう)による、第3回山田風太郎賞受賞作の文庫版である。原稿用紙1,500枚ほどの大長編で、単行本では1冊だったものを今回は2分冊で刊行。解説は筒井康隆が担当している。
何故「あの男」を自らの手で殺めることになったのか。老齢期を迎えた光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかった経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房により、過酷な「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな「傾奇(かぶき)者」として暴れ回る中で、宮本武蔵との交流を持った青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き「虎」は「大日本史」編纂という空前の大事業に乗り出すが…、というお話。
『天地明察』(2009)にも光圀は登場していたわけで、これはある意味セット。あちらは理系で、こちらは文系。江戸初期の、徳川体制が盤石化していくプロセスに大きな役割を果たしたのではないかと思う稀代のオーガナイザの評伝にして、結構伝奇小説的な趣もある作品になっている。いわゆる「黄門漫遊譚」とはかなり趣向の異なる、快作である。以上。(2015/07/26)

藤木稟著『バチカン奇跡調査官 独房の探偵』角川ホラー文庫、2015.06

藤木稟による「バチカン奇跡調査官」シリーズの第11巻。ついこの間前の巻が出たばかりだったので驚いたのだが、今回は短編集の2冊目。元々は電子小説誌『小説屋sari-sari』にごく最近掲載されたばかりの作品4本を集めている。
第1話「シンフォニア 天使の囁き」では平賀の弟である良太と意外な人物との関係が、第2話「ペテロの椅子、天国の鍵」ではローマ法王の退位宣言の内幕が、第3話「魔女のスープ」では平賀とロベルトによる怪しげなレシピ再現への挑戦が、第4話「独房の探偵」では天才的な頭脳を持ち、独房に収監されているローレンが依頼された密室殺人事件の謎が、それぞれ描かれる。
このところ驚異的な密度を持った長編が続いてきたので、ここでちょっと一息を、という感じ。さすがに角川書店というか、こういうスピンオフを世に出していくことでキャラクタに厚みを持たせ、次の展開(メディアミックスになるのだろう。)を考えているに違いない、などと邪推してしまう。戦略の行方を見守りたいと思う。以上。(2015/07/27)

阿部智里著『烏は主を選ばない』文春文庫、2015.06(2013)

阿部智里による、「八咫烏(やたがらす)」シリーズ第2長編の文庫版である。現在4巻まで出ている「八咫烏(やたがらす)」シリーズの第2巻にあたる本書もまた、いかにも王道ファンタジィなテイストの表紙が目を引くが、実は…。
話は少し戻る。北領にある垂氷(たるひ)郷長の三男・雪哉(ゆきや)は、優秀な兄宮が廃嫡され、日嗣の御子となった若宮=奈月彦(なづきひこ)のもとでの、側仕えの任を与えられる。無茶な要求ばかりを仕掛けてくる若宮に反感を覚えながらも、山内での日々は過ぎていく。折しも、世継ぎの后選びが開始され、大貴族たちの足の引っ張り合いが激しくなる中、雪哉もまたそうした政争に図らずも巻き込まれていくことになるのだが…、というお話。
独特な味わいを持つ文体、きめ細かく練り上げられた世界設定等々、本当に素晴らしい。実に優れたファンタジィであり、かつまた文学作品にもなり得ていると思う。どう考えてもまだ、この世界の秘密についてはほんの一部しか明かされていないわけで、この先一体何を見せてくれるのだろう、と、否が応でも想像を膨らませてくれる充実と緊迫の第2巻である。以上。(2015/07/30)

阿部和重著『クェーサーと13番目の柱』講談社文庫、2015.07(2012)

『シンセミア』(2003)や『ピストルズ』(2010)などで知られる作家・阿部和重による長編の文庫版である。元々は『群像』に連載。2012年の単行本化を経て、このたび文庫となった。解説は佐々木敦がたんとうしている。
元写真週刊誌記者のタカツキリクオは、資産家カキオカサトシの指示により、新興のアイドルグループ・ED(エクストラ・ディメンションズ)のミカをモニタリングするチームの一員である。順調に思えたモニタリング活動だったが、新たに加入したニナイケントという男が不穏な動きを示し始め、チームは次第に機能しなくなっていく。カキオカ、あるいはニナイの真の意図は何か?、というお話。
13番目の柱、とはもちろんダイアナ妃が衝突事故を起こした柱のこと。クェーサーとは「準恒星」のことで、ここではモニタリングの対象を暗に意味している。何の話だか良く分からないかも知れないが、タイトルの意味は概ねこの通り。
要は、ダイアナ妃の事故を下敷きに、進化したアイドルや追っかけ行為が俎上にあがる、といった体のお話。基本的にはエンタテインメント作品、として読めるものの、若干敷居が高いかも知れない。W.ギブスン(W.Gibson)を彷彿とさせるところ大な、そしてまたギブスンのヴィジョンに時代が追いつきつつあることを実感させてくれる、そんな作品である。以上。(2015/08/05)

米澤穂信著『リカーシブル』新潮文庫、2015.07(2013)

岐阜県生まれの作家・米澤穂信による、2013年発表の長編文庫版である。元々は『小説新潮』に連載されていたもので、様々なミステリ・ランキングでも上位にランクインした作品、となる。
父が失踪したために母の故郷に引越してきた越野ハルカと弟のサトル。過疎化の進む地方都市では、高速道路誘致運動の裏で様々な思惑がうごめいていたが、そんな中、弟は急に予知能力を発揮し始め、姉は未来視が出来たという「タマナヒメ」なる女性の伝承がこの地にあることを知る。姉と弟の運命はいかに…、というお話。
こういう、土俗信仰をモティーフにしたミステリというのは本当に数多く書かれてきたと思うのだけれど、新たな傑作が生まれた、といったところ。間違いなくこの著者の代表作の一つ、と言って良いだろう。これに続く『満願』(2014)で更なる飛躍を遂げた著者による、青春ミステリの佳品である。以上。(2015/08/08)

誉田哲也著『ブルーマーダー』光文社文庫、2015.06(2012)

誉田哲也による「姫川玲子」シリーズの第4長編文庫版である。元本は2012年に光文社から刊行。解説は有隣堂の書店員・梅原潤一さんが担当している。
「あなた、ブルーマーダーを知ってる?この街を牛耳っている、怪物のことよ。」池袋の雑居ビルで全身を骨折した暴力団組長の死体が発見され、更には、半グレ集団OBと不良中国人が同じ手口で殺害される。池袋署の刑事である姫川玲子は、捜査を進めるうちに裏社会を恐怖で支配する「怪物」の存在に気付き始める。果たして、その正体とは、そしてまた姫川の捜査の行方は…、というお話。
このシリーズ、誉田哲也のライフワークなのだな、と改めて思う。『ストロベリーナイト』から既に高いクオリティを誇っていたが、その筆致はどんどん研ぎ澄まされていっているように思う。警察小説の今、を語るのに欠かせないシリーズであることは間違いない。既に刊行されている最新短編集『インデックス』もなるべく早く手に取りたいと思う。以上。(2015/08/10)

辻村深月著『鍵のない夢を見る』文春文庫、2015.07(2012)

千葉大学出身の作家・辻村深月(つじむら・みづき)による5作品よりなる連作短編集の文庫版である。元々は『オール讀物』や『オールスイリ』に掲載され、単行本は2012年刊。高い評価を受け、第147回直木賞を受賞した作品、となる。
「仁志野町の泥棒」では泥棒だという噂のある友人の母を巡る出来事を、「石蕗南地区の放火」では仕事で赴いた放火現場の調査で昔ちょっとだけ関わったことのある男と再会した独身女性の話を、「美弥谷団地の逃亡者」ではいつしか暴力を振るうようになってしまった彼氏と別れたいと思い始めた女性の話を、「芹葉大学の夢と殺人」では出身研究室の教授が殺された事件の容疑者となった元彼氏に振り回される女性教師の物語を、「君本家の誘拐」では育児ノイローゼの女性が遭遇する幼児誘拐事件の顛末を、それぞれ描く。
地方都市で生きる女性達を物語の中心に据える、というのが作品全体の基調となっている。どの作品も結構ヘヴィなテイストを持っていて、まだ読んだことがなかった、新しい辻村深月、という感じ。確かに、一皮どころではない剥け方を見せてくれていると思う。
ただ、この作品、果たして直木賞にふさわしいのか、というとちょっと難しい気もする。そもそも新人賞なのだから、良いのかも知れないが、今までの直木賞作品を考えると、どうなのだろう。各作家の代表作か、それに近い作品がとっているようにも思うのだが…。
例えば5年後位に、辻村深月の直木賞受賞作ってなんだったけ、という話になったとして、即座に答えられる人がどれだけいるのだろうか?そんな疑問が湧いたのだった。以上。(2015/08/13)

小野不由美著『鬼談百景』角川文庫、2015.07(2012)

「十二国記」シリーズなどで知られる作家・小野不由美による怪談集である。計99本を収録。元々は怪談専門誌『幽』に連載されていたもので、「百景」なのに99本なのは、100話目がもうじき文庫化される長編『残穢(ざんえ)』(2012)にあたるから、ということになるらしい。
基本的に現代怪談を類型上の重複もありで広く集める、という方針で作られているように思う。結構怖い話から、ちょっとニッコリしてしまうような話まで、この季節の読み物として誠にうってつけだと思う。
ちなみに、解説を稲川淳二が担当していて、何とも良い味を出していることを付け加えておきたい。ああ、実はこれが百話目だったり?以上。(2015/08/15)

小野不由美著『残穢(ざんえ)』新潮文庫、2015.08(2012)

上記『鬼談百景』の百話目に当たるらしい、ホラー長編の文庫版である。元々は新潮社から書き下ろしで単行本が刊行され、広く高い評価を受けて第26回山本周五郎賞を受賞。。そして、このたびの文庫化となる。竹内結子・橋本愛出演での映画化企画が進行しており、2016年1月に公開される、とのこと。
小説家の私は、読者の一人である久保さんという人から、自分の住むマンションがどうもおかしいのだが、という話を聞く。ごく普通に見えるマンションで起きているという怪異現象を調べるうちに、ある因縁に行き当たる。どうやら、怨みをともなう死は、いつしか穢(けが)れとなり、拡散する、という事らしいのだが…、というお話。
実在する平山夢明や福澤哲三も登場し、ドキュメンタリ風の文体で終始するこの作品、実話ではないはずだけれど、ひょっとして…、というような感じで、実に見事に「恐怖のツボ」を刺激してくれる、本当に良く出来たホラー小説だと思う。
三津田信三といい小野不由美といい、関西圏の作家は巧みというか何というか。作者の、代表作の一つに数えられるだろう傑作である。以上。(2015/08/20)