誉田哲也著『インデックス』光文社文庫、2017.08(2014)

誉田哲也による人気シリーズである「姫川玲子」ものの第7弾となる短編集である。2011年から2014年にかけて『小説宝石』などに掲載されたものを8本収録。単行本は2014年刊。解説は藤田香織が担当している。
表題作「インデックス」は前作『ブルーマーダー』(2012)の後日談となる。あの池袋を震撼させたおぞましい連続殺人事件の後、行方不明となっていた暴力団組長・皆藤の妻の元を訪れた姫川は、夫は同事件に巻き込まれたのではないか、という妻の訴えを聴く。あの事件は、まだ終わっていなかったのか?この他、極めてヴァラエティに富んだ7編を収める。
さて、この本、短編集とはいっても、要するに既に極めて長大なものになっている「姫川サーガ」のピースとなる作品群、という観方もできるだろう。なお、この短編集をもって、姫川が池袋署に転属したことにより解散した、捜査一課・姫川班は再結成されることになる。即ち本書は、『ブルーマーダー』から『硝子の太陽R ルージュ』(2016)への接続を果たす、重要な作品集なのである。以上。(2017/09/05)

古野まほろ著『R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室』新潮文庫、2017.09

元警察官僚にしてメフィスト賞作家である古野まほろによる、ノンストップ・エンターテインメント小説である。文庫オリジナル。カヴァ絵は清原紘が担当している。
時は2020年。オリンピック終了後に治安が急速に悪化してしまった日本の首都・東京。テロ対策の要として、総理直轄の女性6人からなる特殊部隊=R.E.D.が設置される。暗躍する謎のテロリスト・ワスレナグサを追う彼女らは、やがて一大疑獄の存在を突き止める。彼女らの行く手には何が待ち受けているのか、というお話。
新潮文庫nexの一冊で、内容的にはキャラクタ小説でありライトノベルに限りなく近い。ただ、350ページほどの作品なので、割と量感はある。確かに、物語や登場人物がいかにも類型的なのが気になったり、あるいは『攻殻機動隊』シリーズなどから多くのものを借りているのがかなりあからさまだったりするのだけれど、そういうことを差し引いても良作の部類に入る作品だと思う。
個人的には大変楽しめたし、特に、そのリーダビリティの高さや、色々なところの作りこみの細かさには本当に目を瞠らされた次第。シリーズ化を期待してしまうのだが、その予定はあるのだろうか。以上。(2017/09/15)

乾緑郎著『機巧のイヴ』新潮文庫、2017.09(2014)

『完全なる首長竜の日』で知られる乾緑郎による、SF伝記小説の文庫版である。本書の成立については大森望による懇切丁寧な解説に詳しいが、元々発表されていた「機巧のイヴ」という短編に、『小説新潮』掲載の4本を加えて2014年に単行本刊行。そして今回の文庫化となる。カヴァの装画は獅子猿が担当している。
幕府と天帝家の二大勢力が覇権を争う都市・天府。牛山藩の藩士・江川仁左衛門が、馴染みの遊女・羽鳥そっくりな機巧人形の制作を、幕府製煉方手伝・釘宮久蔵に依頼するところから物語は始まる。釘宮のもとには既に美と技術の結晶ともいうべき機巧人形<伊武>(イヴ)がおり、これを元にした制作が始まるのだが…。(「機巧のイヴ」)
以後、波乱万丈な物語が展開されるが、それはさておき。これは本当に画期的かつ他に類を見ない、そしてまた非常に優れたエンターテインメント作品だと思うのだが、例えば『SFが読みたい!』では国内篇14位と意外に低いランキングにとどまってしまった。ここでは、本作品は純然たるSFではなく、「SF+伝記小説」というジャンル・ミックスとしての在り方が素晴らしいので、そうした評価はあてにならない、ということを述べておきたい。正直な話、直木賞候補になっても全く不思議ではないレヴェルの作品である、と思う。以上。(2017/09/20)

辻村深月著『ハケンアニメ!』マガジンハウス文庫、2017.09(2014)

直木賞作家である辻村深月による、アニメーション業界を描いた大作の文庫版である。初出は『anan』。文庫化にあたり、特別篇「執事とかぐや姫」が追加されている他、著者とアニメーション作家である新房昭之の対談が付されている。カヴァは芥陽子が、本文中の挿画はCLAMPが担当している。
本編は相互に関連しあう三つの章からなる。第一章「王子と猛獣使い」では天才アニメ作家・王子千晴を口説き落として作品制作を始めたプロデューサ有科香屋子の受難を、第二章「女王様と風見鶏」では新鋭監督である斎藤瞳と凄腕プロデューサの行城理による対王子戦略の行く末を、第三章「軍隊アリと公務員」では斎藤の作品の作画を担当する並澤和奈と、斎藤作品の舞台である新潟県は選永市役所観光課の宗森周平の奮闘をそれぞれ描く。全体としては、王子・有科組と斎藤・行城組は、その期のハケンアニメを作ることに成功するのか、それとも、というお話になっている。
実によくできた作品で、思わず引きずり込まれた次第。キャラクタ造形といい、業界のディテイル描写といい、話の持って行き方といい、各話のテーマ設定といい、本当に見事なものだと思う。デビュウした2004年当時に、将来こういうものを書くようになるとは、本人も想像していなかったのではないだろうか。作品ごとにスケールアップを続ける作家による、新たな境地を示す傑作である。以上。(2017/09/25)

法月綸太郎著『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』講談社文庫、2017.09(2015)

新本格ミステリの中心的人物の一人である法月綸太郎による、2006年発表の『怪盗グリフィン、絶体絶命』の続編。2015年に単行本の形で刊行され、この度文庫化となった。杉田俊介が解説を担当している。
グリフィンは、ある男から、SF作家「P・K・トロッター」が遺したという、未発表作『多世界の猫』の原稿を盗み出すことを依頼される。男によれば、この原稿は〈ストーリー・マシン〉が生み出した贋作、ということらしい。原稿を追うグリフィンは、動物愛護団体やCIAによる妨害を受ける。果たしてこの原稿にはどんな秘密が隠されているのか、そしてまたグリフィンの運命は…、というお話。
掛け値なしに面白い作品。こういうのはまさしくツボ。読み終えるのが惜しいくらいだった。新本格ミステリの登場から25年以上が経過して、この作家も、あるいはこの国のミステリもまた新たな時代に向かおうとしているのだな、というような感慨を覚えた次第。SFファンもミステリ・ファンも同時に驚喜させてくれるはずの傑作である。以上。(2017/10/01)

森博嗣著『サイタ×サイタ EXPLOSIVE』講談社文庫、2017.09(2014)

森博嗣による、Xシリーズの第5弾である。ノベルス版が2014年刊。約3年を経ての文庫版登場となった。カヴァ装画は唐仁原多里、解説は香山リカが行なっている。
SYアート&リサーチの小川と真鍋は、匿名の依頼で、佐曾利隆夫という男の尾行をすることになる。男は毎日映画館を見張っているが、目的は不明。やがてこのところ頻発する連続爆発事件にアルバイトの永田が遭遇し、更には佐曾利の元同僚の妻が殺される。これら一連の出来事の背後には、一体何があるのか、というお話。
会話のゆるさからくるのか、雰囲気はほっこりとしているけれど、結構ヘヴィな物語を紡いでいるこのシリーズもそろそろ中盤。どこへ向かうのか全く読めないのだけれど、本作の物語もなかなかに先が読めない。タイトルの明るさとは裏腹に、ちょっとハード・ボイルドなテイストを味わうことのできる、何とも緊迫感に満ちた、そしてまたまことに充実した一冊である。以上。(2017/10/05)

伊坂幸太郎著『砂漠』実業之日本社文庫、2017.10(2005)

伊坂幸太郎の代表作の一つであり、おそらくは最も有名な作品。この作者のものは概ね読んできた気がするのだが、これはなぜか未読で、この度ようやく読む機会を得た。
書誌情報を少し書くと、もともと実業之日本社から2005年に単行本で出て、新潮文庫に入っていたものだけれど、今回は実業之日本社120周年記念ということでこちらの文庫に返り咲いた、ということになるだろうか。ちなみに、作者自身による実業之日本社文庫版あとがきが巻末に付されている。表紙デザインは川谷康久。
舞台は1990年代とおぼしき仙台。当地にある大学に進学した北村は、同学年の男女、すなわちチャラい鳥井、不思議な南、美しい東堂、暑苦しい西嶋らと知り合う。麻雀と合コンに明け暮れる平穏な日常は、ある事件によってもろくも崩れ去ってしまうのだったが…、というお話。
サン・テグジュペリを思わず読み返したくなる作品、である。あるいは、コーエン兄弟のある映画を再度観直す必要があるかな、とも思った。改めて考えてみるとこの作者、結構コーエン兄弟っぽいテーマやモティーフを多用してきたような気もする。
それはさておいて、この小説、構成の妙といい、キャラクタ造形の見事さといい、あるいはまた含蓄の多い台詞群といい、エンターテインメント作品として実に優れていると同時に誠に愛すべき、そしてまた愛されるべき作品だと思う。伊坂幸太郎のエッセンス満載のこの作品が、新たな販路とデザインを得て、多くの人の目に留まることを切に願う。以上。(2017/10/25)

森博嗣著『ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity?』講談社タイガ、2017.10

森博嗣によるWシリーズ第7弾となる長編。今回も創刊2周年となった講談社タイガからの刊行。表紙イラストは引地渉が引き続き担当し、各章の頭にはマイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』からの引用が置かれている。帯のコピーには「逃走中のウォーカロンには、疑似受胎機能が搭載されていた?」とある。
ハギリは、日本で開発されたスーパ・コンピュータであるペガサスから、パリの博覧会から逃亡したウォーカロンにはクローンを産むことができる疑似受胎機能が搭載されていた可能性がある、という情報を得る。ウォーカロンの消息を追ってインドに向かったハギリは、自分の3番目の子供が人間であることを疑う資産家に会う。資産家の周辺では一体何が起きているのか、そしてまたウォーカロンは発見できるのか、というお話。
そういう話でもないのだけれど、大まかにいうとそういう話、である。かなり純然たるミステリに仕上がっていて、ここへ来てこう来たか、とちょっとどころではなく驚かされた次第。テクノロジの未来についてがっぷり取り組んでいる本シリーズの、白眉ともいうべき作品に仕上がっていると思う。以上。(2017/11/05)

連城三紀彦著『女王 上・下』講談社文庫、2017.10(2014)

2013年に65歳で亡くなった作家・連城三紀彦による、「幻」の大長編文庫版である。「幻」、というのは、『小説現代』に1996年から連載されたものの、生前は遂に単行本として刊行されることがなく、死の翌年である2014年に講談社からようやく出版、というややいわくつきな作品である故。解説は香山二三郎が担当し、下巻末には田中芳樹と香山二三郎による対談が掲載されている。
主人公・荻野史郎の、1979年の回想で物語の幕が開く。12歳までの記憶がなく、戦後生まれのはずなのになぜか東京大空襲のことを覚えている史郎は、不可解な幻覚のような症状に悩まされ精神科医である瓜木のもとを訪ねる。それから17年後の1996年。瓜木から、自分の死が間近い、という便りが届き、史郎は再び瓜木のもとへ向かう。
瓜木は、史郎の治療が上手くいかなかったことを悔やんでおり、力になりたいと申し出る。こうして、史郎とその妻加奈子、そして瓜木による真相解明への長い道のりが始まる。史郎が持つ矛盾だらけの記憶、あるいはその捻じれに捻じれた過去の裏に秘められた真相とは一体何か、というお話。
デビュウ作であるサイコ・サスペンスの『暗色コメディ』から、本当に色々な作風のものを書いてきて、結局原点に戻ってきたのだな、という印象を持って読み始めた次第。しかし、読み進めていくと、それだけでは全くなく、途方もない大仕掛けが施されていることがやがて明らかになっていくのだが、それは、是非実際に手に取って確かめていただきたいと思う。やや読みにくい作品ではあるが、その苦難の先に待つものは、まさに至高の読書体験である。以上。(2017/11/10)

阿部和重・伊坂幸太郎著『キャプテンサンダーボルト 上・下』文春文庫、2017.11(2014)

2014年に刊行されて大いに話題になった、阿部和重と伊坂幸太郎の合作小説文庫版である。文庫化にあたり2分冊となり、佐々木敦が解説を書き、最後にはボーナストラックまでが追加された。
あらすじ。ひょんなことからテロリストに追われる身となった相場時之は、偶然なのか天の采配なのか仙台市内の映画館で旧友の井ノ原悠と再会。こうして二人の、山形・宮城両県をまたにかけた逃亡劇が始まる。テロリスト、あるいは彼が求める「水」の正体とは、そしてまた二人の運命やいかに、というお話。
その作品のほとんどを読んできたはずの二人による合作。これで面白いものができないはずがない。期待にたがわぬ、傑作だと思う。
さて、どう考えても映画にしない手はないような作品なので、さて映画化は、と思ってネット内を検索したのだが、現時点でまだその話はないようだ。まあ、確かにお金はかかる。でも、是非ともやって欲しい、と思う。
最後になるけれど、実は何となくトマス・ピンチョン(Thomas Pynchon)っぽいな、と思って読んでいたのだけれど、結構意識しているのかも知れない。エンターテインメント性はかなり増量されているけれど、扱われているテーマや群像劇的で映画的な小説スタイル、そしてまた膨大な引用やパロディが、ピンチョンっぽい雰囲気を醸し出している、と思う。以上。(2017/11/20)

麻耶雄嵩著『化石少女』徳間文庫、2017.11(2014)

目覚ましい活躍ぶりの作家・麻耶雄嵩による6本からなる連作短編集の文庫版である。初出は『読楽』(元『問題小説』)で、2012年から2013年にかけて掲載された。2014年に単行本として刊行され、今回の文庫化では加筆修正が施されているということである。解説は千街昌之が担当している。
京都の名門高校であるペルム学園が舞台。2年生の神舞(かんぶ)まりあは創部20年を誇る古生物部の部長をする、美形だが化石マニアの落ちこぼれ女子高校生。学校では怪事件が続発し、まりあは古生物部員の1年生・桑島彰をワトソン役として謎解きを始めるが、その推理はとんでもない方向に。果たして事件は解決に向かうのか…、というお話。
学園ものには良くある「べた」な設定、ではあるのだが、ミステリとしては基本的に破格。そこはさすがに麻耶雄嵩、である。古生物学の蘊蓄を随所に織り交ぜつつ、緻密なロジックと大胆なはぐらかしで構築された独特な物語は、もはやこの著者の独擅場、といった体、に見える。怪著にして、快著である。以上。(2017/11/28)