森博嗣著『血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null?』講談社タイガ、2018.03

森博嗣によるWシリーズ第8弾となる長編。今回も講談社タイガからの書き下ろし刊行。表紙イラストは引地渉が引き続き担当し、各章の頭にはジョージ・オーウェル『1984年』からの引用が置かれている。帯のコピーには「蘇生した冷凍遺体。王子たる彼を盗み出したのは誰か?」とある。
イマンという、「人間を殺した最初の人工知能」とされるAIをめぐる物語。デボラら対立する勢力との、電子空間内での通信痕跡の源がイマンであることを突き止めたドイツの情報機関が、ハギリらにエジプトへ赴いてイマンの解析をしてくれないか、と依頼してくる。現地に到着したハギリらは、イマンが地下深くに設置されており、外部との通信は遮断されていることを発見する。一体何が?、というお話。
ある意味において、本作なども初期の作品のような純然たるミステリに近い、と思う。シリーズも残すところ数冊となり、いよいよあの人の影が色濃くなってくる。人とAIとの関係、あるいは人と人でないものの境界を巡るテーマを描いたこのシリーズが、どこに着地するのか、楽しみしたいと思う。以上。(2018/03/05)

山本弘著『BISビブリオバトル部2 幽霊なんて怖くない』創元SF文庫、2017.02(2015)

山本弘による「BISビブリオバトル部」シリーズ第2弾の文庫版である。元本は2015年刊。カヴァのイラストはpomodorosaが、解説は作家の福田和代が担当しており、巻末には参照資料や著者によるあとがきも付されている。
美心国際学園(BIS)ビブリオバトル部は、夏休みに造り酒屋である埋火武人(うずみび・たけと)の家で合宿を行なうことになる。当然ビブリオバトルが開催されることになるが、テーマは夏らしく「恐怖」。百物語よろしく、蝋燭の灯る中で各人は持ちネタを披露するが、投票が行なわれる際に不可思議な現象が発生してしまう…。一体何が?
というのは冒頭部で、メインのお話はライバルである真鶴高校ミステリ研とのビブリオバトル、である。こちらのテーマは「戦争」。見事なまでの直球勝負だけれど、莫大な数のテクストが存在し、政治経済のみならず、イデオロギーやら宗教やらまで関わるこの大変な課題に、各ビブリオバトラ達は得意ジャンルの本を用意して立ち向かう、ということになる。
何とも熱い本で、舌を巻くばかり。このシリーズ、まだまだ続いているけれど(既刊4冊)、この作家のライフ・ワークにして代表作にさえなりそうな気がしている。次巻でも熱くて有意義なバトルが展開されているはず。いずれ紹介したいと思う。以上。(2018/03/08)

麻耶雄嵩著『あぶない叔父さん』新潮文庫、2018.03(2015)

2010年代を駆け抜ける禁断のミステリ作家・麻耶雄嵩による連作短編集。単行本の刊行は2015年。各篇の初出は5篇が2011年から2014年までの『小説新潮』で、1篇のみ書き下ろしとなる。カヴァのイラストは古谷兎丸が、解説は若林踏がそれぞれ担当している。
上記のように、本作品は計6本の短編からなる。高校生の「俺」には、大好きな叔父さんがいた。俺の家族からは疎んじられていて、実家である寺の離れでなんでも屋を営んでいる叔父さんだが、町で起きた事件を教えると、キレイに謎を解き明かしてくれる。そんな叔父さんと俺の、「あり得ない」事件簿。
もう、何も書けないというか、とりあえず空前絶後、な内容。意外にキチンとしたミステリの体裁、なのだけれど、何しろこの作家なのでそんなに簡単に済むわけがない。とにかく手に取って、心行くまで驚愕して頂きたい、と思う。以上。(2018/03/10)

井上夢人著『the SIX ザ・シックス』集英社文庫、2018.02(2015)

岡嶋二人を解消してから相当長い時間が経ってしまった井上夢人による、『the TEAM ザ・チーム』(2006)と内容的につながりを持つ連作短編集である。元々は2007年から2013年にかけて『小説すばる』に掲載された6本を集めたもので、単行本は2015年刊。解説は大矢博子が担当している。
翌日に起こる出来事が見える8歳の少女、他人の心の声が聞こえてしまう男子中学生、空気でナイフを作り出すことができる小学5年生の男子、昆虫を呼び寄せてしまう4歳の少女、放電能力を持つ男子高校生、ヒーリング能力を持つ女子中学生の計6人。彼らは自らの能力を持て余し、あるいは周囲から恐れられ、そして悩む。そんな彼らに、希望はあるのか…、というお話。
超能力ものを長く書いてきたこの著者だけれど、結構手あかがついた能力であっても、書き方次第で読者に新たな感動を呼び起こせることを証明した作品、と言えるだろう。多岐にわたる試行錯誤の末に、辿り着いた境地、ということになるのかも知れない。やさしさに満ち溢れた見事な作品集である。以上。(2018/03/15)

島田荘司著『ゴーグル男の怪』新潮文庫、2018.03(2011)

ミステリ・ゴッドである島田荘司による、2011年に公刊されたミステリ長編の文庫版である。この作家では全く珍しくないことだが、500頁を超える大著で、文庫化にあたっては、加筆が行なわれている。カヴァの装画は石塚桜子が、解説は中野圭が担当。
東京都下の福来(ふっき)市でタバコ屋の老婆が殺害される。実はその夜、ゴーグルを装着した怪しげな男が徘徊しているという目撃情報があった。現場には黄色く塗られたピン紙幣が落ちており、50本のたばこが散乱。折しも、核燃料製造会社を巡る奇妙な噂が取りざたされていた。一体、この街に何が起きているのか…、というお話。
実際に起きた臨界事故が大きく取り上げられる。このあたりの描写がいささか凄まじいのだが、本全体としては、ちょっと間抜けな感じの刑事たちの存在もあってか、重くなり過ぎないところに落ち着いていると思う。まあ、要するにミステリ・ゴッドの作品、ということであるのだが。以上。(2018/03/18)

円城塔著『エピローグ』ハヤカワ文庫、2018.02(2015)

芥川賞作家・円城塔による、『プロローグ』(文春文庫)と対をなすはずの長編小説文庫版である。もともとは『SFマガジン』に連載され、2015年に単行本刊。表紙のイラストはシライシユウコが、巻末の解説は佐々木敦が担当している。
人類退転後の世界。人類を退転に追いやったオーバー・チューリング・クリーチャ(OCT)の構成物質を拾い集めるべく、朝戸連(あさと・れん)とその相棒のロボット・アラクネは「現実宇宙」へと赴く。一方、二つの宇宙で起きた「人類未到達連続殺人事件」の謎を追う刑事クラビトは、その背後に多宇宙間企業イグジステンス社の意図を見る。二つの物語は、交錯するのか、はたまた、というお話。
と、書いてはみたものの何だかさっぱり分からないはず。この作品は決して要約不可能、というわけでもなく、意外とG.イーガン(G.Egan)的なエンジニアリング系SFに近い作品だと思うのだけれど、何しろ作品の体裁が晦渋極まりないというかまあ難解極まりないというか、まあ一言でいえばぶっ飛んでいるというか。今日の文学界におけるパイオニアの一人である円城塔が、新境地に踏み込んだチャレンジングな作品、と述べておきたい。以上。(2018/03/20)

米澤穂信著『真実の10メートル手前』創元推理文庫、2018.03(2015)

2010年代を疾走する作家・米澤穂信による、太刀洗万智(たちあらい・まち)を主人公とするミステリ短編集である。単行本は2015年に刊行され、第155回直木賞候補となった傑作。解説は宇田川拓也が担当している。
2007年から2015年という比較的長期間にわたって発表された計6篇を集める。2004年発表の長編『さよなら妖精』において高校生であった太刀洗万智は、新聞記者を経てやがてフリーランスのライタへと転身することになるが、本作品集所収の各エピソードでは、その道のりにおいて遭遇した様々な時期の様々な事件がつづられている。
人という生き物が持つ醜さや滑稽さを、透徹したまなざしで見つめ描き続ける米澤穂信だけれど、その真価がいかんなく発揮された作品集である。著者の到達点にして最高傑作とも言われる『王とサーカス』も間もなく文庫化される模様だが、併せて読まれるべき名編であると思う。以上。(2018/04/12)

三崎亜紀著『手のひらの幻獣』集英社文庫、2018.04(2015)

人気作家・三崎亜紀による、連作作品集の文庫版である。詳細はいつものように懇切丁寧な大森望による解説をご覧いただきたいが、本書のコンテンツは2011年発表の「研究所」、2013年発表の「遊園地」の中編2本が収録された単行本版に、2015年発表の「屋上の波音」という短編を加えたものになっている。
「表出者」である日野原柚月(ひのはら・ゆづき)は、心の中で作り出した動物のイメージを「表出」させ、他人に見せることができる、という特異な能力に恵まれていた。そんな表出者を抱える会社=ハヤカワ・トータルプランニングで働き始めてから、かれこれ10年が経過した彼女は、とある研究所の警備を担当することになる。実は、この研究所には禁断とも言える存在が隠されており、やがて彼女はその存在が引き起こす騒動に巻き込まれていくのだが…、そんなお話。
上のようなやや特異な世界観を読むものにさっと認識させる三崎亜紀こそが「表出者」なのかも知れないが、そこはそれ。丁寧な描写、良くできたプロット、そして人物造形の三拍子が揃った、極めて優れたエンターテインメント作品である。前日談である2本は別の本に収められているが、いずれそちらもチェックしたいと思う。以上。(2018/04/15)

伊坂幸太郎著『火星に住むつもりかい?』光文社文庫、2018.04(2015)

伊坂幸太郎による大長編である。元々は2015年に書き下ろし単行本で登場。3年を経ての文庫化となった。ぼくのりりっくのぼうよみが解説を執筆している。
警察国家へと発展を遂げたパラレル日本が舞台。それは、交代制の「安全地区」が設けられ、そこに警察の内部組織である「平和警察」がやってきて、監視と密告により「危険人物」とみなされた人物を公開処刑する、という暗黒の社会。ある時、仙台が安全地区に指定され、物語は動き出す。突如として現われた全身黒ずくめの「正義の味方」は、仙台の街を、あるいはこの世界を救済できるのか、否か、というお話。
いつものことながら、伏線の張り方といい、人物配置の妙といい、本当に見事な仕上がりのエンターテインメント作品で、改めてうまい作家だな、と思う。ちなみに、故デイヴィッド・ボウイ(David Bowie)の"Life on Mars?"からこの何とも印象的なタイトルがとられたそうだけれど、その辺の事情は<参考文献>のところにちらっと書かれているので、ぜひ参照していただきたい。以上。(2018/05/02)

浦賀和宏著『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』幻冬舎文庫、2018.04(2009)

浦賀和宏による、安藤直樹シリーズ・シーズン2の第1弾である。元々は『萩原重化学工業連続殺人事件』というタイトルの講談社ノベルス版が2009年に刊行。9年を経ての文庫版刊行となった。文庫化にあたっては加筆修正が施されている、とのことである。解説は佳多山大地が担当している。
ナンパ男の有葉零(あるは・れい)は、街で知り合った祥子を情事の最中に絞め殺してしまう。しかし、死体は消失。ショックから立ち直れない零は、祥子が口にしていた新理司(しんり・つかさ)という小説家に会いに出かける。折しも、脳を抜かれる、という無残な手口の猟奇殺人事件が複数発生。一体誰が、何の目的でそのようなことをしたのか、そしてまた萩原重化学工業はこの事件にどう関わるというのか、というお話。
シーズン2ということなのだけれど、基本的にはここから読み始めて全く問題ない。むしろ、先入観なしで読めることが私にはとても羨ましい。なにしろ本作は、現時点でこの著者の最高傑作なのではないか、と考えているほどの作品。散りばめられた数多くの謎、そして驚天動地の真相、全てが素晴らしい。これを読まずして、浦賀和宏を語ることは不可能である。以上。(2018/05/05)

藤木稟著『バチカン奇跡調査官 ジェヴォーダンの鐘』角川ホラー文庫、2018.04

TVアニメにもなった、藤木稟によるヒット作「バチカン奇跡調査官」シリーズの第17巻。今回も長編でもちろん文庫書き下ろし。長編作品としては、14番目にあたる。前作からはやや時間が空いたが、424頁とかなりな長さを持つ作品となった。カヴァのイラストは毎度おなじみのTHORES柴本が担当している。
舞台はフランス。かつて「ジェヴォーダンの獣」という怪物が出現した、という伝承を持つ地域にある小さな村の教会から奇跡調査の依頼を受けた天才神父コンビは、早速現地に赴く。村人の話を聞くと、山中の洞窟での礼拝中に、舌のない鐘が鳴りだし、全盲だった少女の目が見えるようになった、というのだ。どうやら、少女の視力は、3年前に巨大なカラスの魔物に襲われてから失われたということなのだが、はたして…、というお話。
シリーズの原点回帰、ということになるだろうか。ただし、元に戻るというよりは、螺旋的に転回してより大きな弧を描くようになっている印象。キリスト教を中心として、本書に詰め込まれた情報はそれはそれは広い範囲に及ぶ。ケルト神話、カタリ派、マリア信仰、そしてメーテルリンク。宗教史を俯瞰しようかというような凄まじいまでの貪欲さに満ちた、そしてまた何とも感動的な、一冊である。以上。(2018/05/09)

宮内悠介著『彼女がエスパーだったころ』講談社文庫、2018.04(2016)

宮内悠介による、吉川英治文学新人賞受賞作の文庫版である。『小説現代』に連載された6篇を収録している。単行本は2016年刊。文庫化に際して、著者による文庫版あとがきが付された。
正真正銘のエスパーであるかも知れない及川千晴は、超能力懐疑派の物理学者・秋槻義郎(笑)と2度目の結婚をする。穏やかな暮らしは長くは続かず、秋槻は屋上から転落して死亡する。ライタであるわたしは、彼女に興味を抱き、取材を開始するが、墜死事件には秘められた真実があった。(「彼女がエスパーだったころ」)
超能力をテーマとした上記表題作の他に、百匹目の猿、オーギトミー、浄化水、代替医療、ティッピング・ポイントをテーマとした5作品が収められている。SFとミステリ、あるいはファンタジィと純文学が混然一体となった、連作短編集。これを読まずして2010年代の日本文学は語れない、とすら思う、それくらいの傑作である。以上。(2018/05/15)

阿部智里著『玉依姫』文春文庫、2018.05(2016)

阿部智里による「八咫烏(やたがらす)」シリーズ第5弾。2016年に単行本が刊行され、2年を経ての文庫化となった。表紙の装画はおなじみの苗村さとみが担当。巻末には「匂玉三部作」で知られる荻原規子との対談を収録している。
葛野志帆(かどの・しほ)は、都内で祖母と二人暮らしをする高校生。ある日のこと、伯父である修一の誘いで、祖母が母を連れて出たという村へと赴くことになる。志帆はそこで、恐ろしい儀式に強制的に参加させられ、命の危険にさらされることになるが、やがて美貌の青年が現われる。彼は敵なのか、それとも味方なのか…、というお話。
第4巻までの話と一体全体どうつながるんだ、と疑問を抱かれるだろうけれど、そこはそれ。実際に読んでお確かめ頂きたいのだが、本作は、2008年から2009年にかけて著者が松本清張賞に応募するために執筆したものを、大幅改稿したもの、ということになる。要するに、このシリーズはここから始まったのである。次はいよいよ、第一部完結篇『弥栄の烏』、となる。以上。(2018/05/20)