オキシタケヒコ著『筐底(はこぞこ)のエルピス7 ―継続の繋ぎ手―』ガガガ文庫、2021.02

徳島県出身の作家・オキシタケヒコによる伝奇SFアクション作「エルピス」シリーズの第7巻。文庫オリジナル。前巻の刊行からは約2年が経過。さすがにペースは落ちてきているが、何しろ中身が濃いのでやむを得ないかとも思う。イラストレーションはこれまで通りtoi8が担当している。
三つのゲート組織全てが、月にいる異星知性体からの干渉を受け、完全に乗っ取られてしまう。その一つである《門部》本部では、コントロールを奪われた7代目当主・百刈燈(ももかり・あかり)のひざ元で、当主代行を長きにわたって務めてきた阿黍宗佑(あきび・そうすけ)が、その死から第二の心臓を埋め込まれて最悪の敵として目覚めつつあった。百刈圭(ももかり・けい)ら鬼を狩る者たちは、この難局をどう切り抜けるのか、というお話。
人類の存亡を賭けた戦いも、いよいよクライマックス、という感じ。物語が極度に複雑化してしまい、登場人物も異様なまでに多彩なので、執筆はとても大変な作業になっていると思う。既に記念碑的な作品だと思う本シリーズが、我々の想像を遥かに超えるような終結を迎えることを、思わず期待してしまう。最終巻を楽しみに待ちたいと思う。以上。(2021/03/03)

今村昌弘著『ネメシス I』講談社タイガ、2021.03

長崎県出身の作家・今村昌弘による、2本からなるミステリ作品。文庫オリジナル。日本テレビ系でこの4月から放送される櫻井翔・広瀬すず主演のドラマ『ネメシス』の「脚本協力」として書き下ろしたもの、らしい。基本的には、今村氏が書いたものを、脚本家の片岡翔・入江悠が脚本にするのだと思う。こういうミステリを書くのはそれはそれは大変なので。
ネメシスとは、横浜市に拠点を置く探偵事務所。第1話では、磯子のドンファンとも呼ばれる澁澤火鬼壱(ほきいち)の遺産を巡る暗号と密室殺人の謎が、第2話では、連続爆弾魔が起こした遊園地での脅迫事件の顛末が描かれる。
さすがに、あの傑作『屍人荘の殺人』を書いた作家だけに、読者へのサーヴィス精神のみならず、論理構成とかフェアプレイ精神とかそういうところは実にしっかりしている。これがデビュウから数えて3作目だと思うのだが、要はかなりの寡作作家なので、実に貴重な作品、だとすら思う。多くの人が、買って損した、とか、読んで損した…、とはきっと思わないだろう。
さて、詰まらないことを述べておくと、スマートフォンが出てくるので今日の話なはずである。で、第1話の方で、21頁に「数十億」の資産ってあるのだが、その程度で澁澤は大富豪と言えるのだろうか?個人的には一桁か二桁少ない気がするのだが…。もっと書いて書いて書きまくって稼ぐんだ(笑)。以上。(2021/03/19)

冲方丁著『マルドゥック・アノニマス 6』ハヤカワ文庫JA、2021.03

岐阜県生まれの作家・冲方丁(うぶかた・とう)による、マルドゥック・シリーズ最新刊。『SFマガジン』連載を経て、最初から文庫での刊行。カヴァのイラストは毎度おなじみの寺田克也が担当している。
声を取り戻したバロットは、宿敵となったハンターとの直接接触を果たす。どうやらハンターは、自分をシザースの一員だと疑っており、それを指摘したバロットにその根拠を聞きたいらしい。会談の舞台として選ばれたのは因縁深きフラワー法律事務所。〈イースターズ・オフィス〉と〈クインテット〉、そしてまた他陣営の思惑が複雑に絡まりあうマルドゥック市の暗闘は、一体どこに向かうのか、というお話。
物語の「転換点」とも言い得る巻になっていると思う。交互に描かれてきた過去の回想パートが現在のバトル・パートに追いつき、そして新しい展開に入っていく。各陣営の思惑がかなりの部分明らかになり、いよいよクライマックスへ突入、という感じ。いよいよ目が離せなくなってきたこのシリーズ、第7巻の刊行を心待ちにしている。以上。(2021/03/25)