シルヴィア・パク著 藤沢町子訳『ロボットが泣いた夜』新潮文庫、2025.06(2025)
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韓国系アメリカ人であるシルヴィア・パク(Silvia Park)によるSF長編である。原題はLUMINOUS。第35回アザーワイズ賞などを受賞し、ドラマ化も決定済み。解説は大森望が担当している。
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近未来における大韓統一共和国の首都ソウルが舞台。ある日のこと、難病を患っている少女リウ・ルイジエは廃棄された戦闘マシンSADARM1000の中から少年の姿をした戦闘ロボットを発見する。ヨーヨーと名乗るその少年と打ち解けていくルイジエ。しかし、そんな日は長く続かず、ルールーはこの町で起きた殺人事件に深くかかわることが疑われてしまい…、というお話。
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南北が統一されている、という想定なので、当然戦後。その辺が深く物語に影を落とす。地政学的問題や、人種や民族、性差、正義や宗教等々、今日における重要な問題をこれでもかというくらいに投げ込んだ力作だと思う。サイバーパンクやエンジニアリング系SFの系譜をしっかりと継承しつつ、AI化が進む現実を踏まえて次を模索する、という意気込みを感じた。今後の活躍が楽しみな作家である。以上。(2026/06/10)
冲方丁著『マルドゥック・アノニマス 11』ハヤカワ文庫、2026.05
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岐阜県生まれの作家・冲方丁によるマルドゥック・アノニマス・シリーズ第11弾である。いつもと同じく『SFマガジン』連載のものを単行本化等を経ずに文庫化したものになる。カヴァのイラストは寺田克也による。
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リバーサイド・ホテルで人質奪還作戦が始まる。〈イースターズ・オフィス〉、〈クインテット〉、警察は共同してこれにあたり、明確な形で現れた〈シザース〉と初めて本格的に対峙する。バトルの行方はいかに、というお話。
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予想通り前の巻での展開を忘れていて(笑)、何が始まったのか分からないで読んでいた。さすがに登場人物が増えすぎていて、誰がどの陣営なのか人物表をいちいち確認しないといけないのはどうなんだろう。映画なんかだと、ヴィジュアルや劇伴などで工夫していたりするけれど、小説だとその辺が難しい…。
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物語自体はそれなりに進んでいて、ちょっとだけ結末が見えてきたかな、といったところ?ちょろちょろとしか出ていなかった重要な人物がいよいよ本格的に動き出すのかな、といった感じで終わっていて、まあどうせ来年には忘れているんだろうけれど(笑)。この際、頭から読み直すか、とか思っていたり。以上。(2026/06/15)
誉田哲也著『ジウX 〈ジウ〉サーガ10』中公文庫、2026.06(2023)
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東京都生まれの作家・誉田哲也による〈ジウ〉サーガ第10弾となる長編文庫版である。ここで、タイトルが『ジウ+ローマ数字』に戻ったのだが、要するに話としてはある意味『ジウI』〜『ジウIII』の続き、にあたる。解説は宇田川拓也が担当している。
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渋谷署管内で子宮を生きたまま摘出されたと思われる死体が発見される。警視庁の東弘樹(あずま・ひろき)警部補らが捜査を進めるが、被害者の身元すらつかめない状況が続く。そんな中、歌舞伎町セブンの「第一の手」であるバー・マスタ陣内陽一のもとに、かつてNWO(新世界秩序)とつながりをもっていたフリーライタの土屋昭子が訪れ、とある依頼をしてくる。これらの事象は、あの悪夢が再び起こる予兆なのか、それとも…、というお話。
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いかにも誉田哲也らしいヴァイオレンスと謀略に満ちた作品。その実、たいていのホラーより怖いとすら思う。それはともかく、NWOが戻ってきたことで、このシリーズも新たな局面に入った。刊行間近い第11弾『ジウ The Next』以降が非常に楽しみである。以上。(2026/07/01)
宮内悠介著『ラウリ・クースクを探して』朝日文庫、2026.06(2023)
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東京都生まれの作家・宮内悠介による中編の文庫版である。初出は2023年で、各方面から非常に高い評価を受け、第170回直木賞候補となった作品。余りにも素敵すぎるカヴァのイラストは金子幸代、解説はマライ・メントラインがそれぞれ担当している。
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1977年にソビエト連邦の一部であったエストニアで生を受けたラウリ・クースクは、5歳の時に初めてコンピュータに触れ、その類い稀な才能を開花させていく。同じく才能のある仲間との出会い、コンクールでの入賞など華々しい活躍を始める中、ソビエト連邦が崩壊し、すべては混沌に飲み込まれていく…、というお話。
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プログラマだった宮内悠介ならではの作品とも言える。草創期のディジタル文化醸成に20世紀終盤最大の政治的イヴェントだったソビエト連邦崩壊を絡め、主要登場人物3人の生きざまを見事に描いている、と思う。抒情的になり過ぎないほど良いバランスで紡がれた、短いながら著者の現時点での到達点を示すかのような傑作である。以上。(2026/07/05)
青崎有吾著『地雷グリコ』角川文庫、2026.06(2023)
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神奈川県生まれの作家・青崎有吾(あおさき・ゆうご)による連作短編集文庫版である。初出は『小説屋sari-sari』など幅広い。単行本刊行後極めて高い評価をされ、第37回山本周五郎賞、第77回日本推理作家協会賞、第24回本格ミステリ大賞などを受賞。第171回直木賞候補にも挙がった。カヴァのデザインは川名潤、解説は小川哲がそれぞれ担当している。
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鉱田風日(こうだ・かざひ)の友人である都立頬白(ほおじろ)高校1年の射守矢真兎(いもりや・まと)は勝負事にめっぽう強かった。彼女らは、文化祭の出店場所を賭けた冒頭の「地雷グリコ」を皮切りに、数々の勝負に挑んでいく。その果てにはいったい何が待ち受けているのか…、というお話。
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ゲームバトル、というややマイナなジャンルものになる。5本が収録されているが、その一つ一つのアイディアが素晴らしいこと、説明が分かりやすいこと、一本一本の話の持って行き方が見事なこと、1冊の本として完璧な形でまとまっていること、を挙げておきたい。
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このレヴェルの作品は、なかなかお目にかかれない、と思う。極上のエンターテインメントとして、適度な頭の体操として、是非ご一読いただきたいと思う。以上。(2026/07/08)
藤木稟著『バチカン奇跡調査官 法王の魔導書』角川ホラー文庫、2026.06
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大阪府出身の作家・藤木稟(ふじき・りん)による、「バチカン奇跡調査官」シリーズ27弾の中編集である。3本が収録されており、2作品は『カクヨムネクスト』初出で表題作は書き下ろし。400頁超で色々な意味でかなりヴォリュームあり。カヴァのイラストはいつものようにTHORES柴本が担当している。
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アメデオ・アッカルディ大佐はまたしても難事件を担当させられる。難病を患った者がマフィアのような者たちを殺害する、という事件が立て続けに起きているらしい。手詰まりのアメデオは師匠のローレン・ディルーカに助力を乞うが…(「解放のファンタズマ」)。他に、アルバーノ・サッシが前歴である『シオンの掟』の元同僚を追う「真緋色(あけいろ)の轍」、奇跡調査官たちがとある島で起きた悪魔憑き事件の真相を追う表題作の計3本。
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スピンオフ2本に主役たちが活躍する1本。誠に素晴らしいサーヴィス精神。第1話に登場するある日本人名にはニヤリとさせられた。そして、政治がらみの話から、悪魔崇拝、果ては薬学と、その博覧強記振りにはいつものことながら圧倒される。このライフワーク的シリーズ、間もなく30冊に到達するが、その日を心待ちにしたい。以上。(2026/07/10)
伊坂幸太郎著『777 トリプルセブン』角川ホ文庫、2026.06(2023)
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千葉県生まれの作家・伊坂幸太郎による殺し屋シリーズ第4弾の長編文庫版である。シリーズ物が少ない作家の中で比較的継続的に作品が出ている貴重なシリーズ、だと思う。解説は鈴木結生(すずき・ゆうい)が担当している。
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舞台はウィントンパレスホテル。「死のうと思っていた人が死にたくなくなる」くらいの居住感を持つこのホテルだが、この日は違った。悪運に取りつかれた殺し屋・七尾(天道虫)は、その一室に宿泊する客に荷物を届ける、という仕事を請け負う。しかし、訪れた部屋には受取人ではない男がおり、自分に殺意を向けてきた。
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同じころ、同ホテルに身を隠していた超絶的な記憶力を持つ紙野結花(かみの・ゆか)を狙う者たちが次々にやってくる。さて、その狙いとはいったい?、というお話。
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まさにグランド・ホテル形式。そもそも伊坂さんの作品は多視点なものが多かったのだが、これは直球そのままのグランド・ホテル形式。映像化したら面白いよなー、と思いながら読んでいた。監督はQ.タランティーノとかで(笑)。夢だな〜。
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単純にエンターテインメント作品として楽しく読めるのだが、そこはこの作家。世の中の仕組みとか、悪い奴の論理とか、なんでこう色々うまくいってないのだろうかとか、その辺の書きっぷりがさすが。デビュウ以来ずっと正義とか悪についてディープに語ってきているけれど、ちょっと振り切った感がある。きっと書かれる第5作も楽しみである。以上。(2026/07/15)
小川哲著『君が手にするはずだった黄金について』新潮文庫、2026.07(2023)
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千葉県生まれの作家・小川哲(おがわ・さとし)による連作短編集文庫版である。2024年の本屋大賞ノミネート作になる。オリジナルの6本に加え、文庫版では「革命前夜」を新たに収録。カヴァのオブジェはtakeru amano、解説は大森時生がそれぞれ担当している。
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作家になった僕は、同じ高校に通っていた片桐という男から久しぶりに連絡を受ける。トレーダーとして独立している、という片桐は、作家になった僕を本物だ、という。しばらく音沙汰がなかったが、やはり高校の同級生・轟木(とどろき)から、片桐がネット上で話題となっており、自サイトで「80億を運用している」、とか言っている、と聞く。しかし、その実情は…(表題作)。他6本。
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ほぼ本人自身の登場する、とは言えどこからかはフィクションであるはずの作品集、になる。小川哲が私の住まいからほど近いところにある高校に通っていたことはまあ事実であり、そんな関係でこの辺の話がちょこちょこ出てきて、ニヤリとした。ボーリング場はあそこだし(ちょっと距離あるけど。)、マックはどのマックだろう、とか。
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そうそう、どんな進学校であれ、青春は間違いなく存在する。それは私自身の実感としてもある。全然そういう本じゃないけど、そう読んでしまった。ごめんなさい(笑)。以上。(2026/07/20)
誉田哲也著『マリスアングル』光文社文庫、2026.08(2023)
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東京都生まれの作家・誉田哲也による〈姫川玲子〉シリーズ11冊目となる長編文庫版である。表紙裏には「第十作」とあるが数え方による。解説は村上貴史が担当している。
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姫川玲子のいる捜査一課殺人班捜査第十一係に魚住久江が着任してきたその日に、日本橋にある民家で死体が発見される。発見場所は監禁用に改装されていたとみられ、証拠は徹底的に隠滅されていた。姫川や魚住らによる捜査が進むにつれ、別の事件との関わりが浮上し、構図が書き換えられていくのだが…、というお話。
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さすがのリーダビリティとめくるめく展開はこの著者ならではのもの。追い込むタイプの姫川と、寄り添うタイプの魚住、という対比がとても面白かった。
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結構大きな話を扱っていて(要は「慰安婦問題」。)、そういう動機でこんなことをやるだろうか、と思ったりもしたのだが、安部元首相襲撃のようなことも現実には起きている(報道通りであるのなら、だが。)。そういうところに勇猛果敢に切り込んでいく誉田哲也の今後に大きな期待を寄せている。以上。(2026/08/15)
夕木春央著『時計泥棒と悪人たち』講談社文庫、2026.08(2023)
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勢いに乗る作家・夕木春央(ゆうき・はるお)による連作短編集文庫版である。連載等は経ず、2023年に単行本で刊行。計7本が収録されている。カヴァのイラストはミヤザキコウヘイ、解説は西上心太がそれぞれ担当している。
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元泥棒の蓮野と画家の井口が探偵役・助手役という割り振りになっている。時系列的にはデビュウ作『絞首商會』より前の話。第1話は井口が浦川加右衛門(うらかわ・かえもん)に譲った置時計がどうやら贋物であるらしく、加右衛門が作った美術館に展示される前に本物と交換すべく忍び込む二人だが、というお話。その他6本を収録。
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連作なので、少しずつ関連性を持った話、になっている。『方舟』などのようにアッと驚く、という感じではないのだが、そこが逆に面白いし、読みどころでもある。基本的に大正期を舞台とする古き良き冒険ミステリに雰囲気が近い本格ミステリなので。一話一話の、そしてまた本としての完成度は極めて高く、まことに凄い書き手だと思う。以上。(2026/08/25)