Clint Eastwood監督作品 『チェンジリング』
最早誰もが認める偉大な映画監督の一人となった感のあるクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)によるアカデミー賞3部門ノミネートの傑作である。イーストウッドはこのところ誠に旺盛な創作を続けているけれど、今まで観た彼の作品の中では最も優れたものではないか、とすら考えた次第。
舞台は1928年のロサンジェルス。電話会社で働くシングル・マザーのクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー=Angelina Jolieが演じる。蛇足ながら、この人の起用をLAと引っかけた可能性は否定できなさそう。)の一人息子ウォルターがある日突然失踪。5ヶ月後に発見され戻ってきた少年は自らをウォルターと名乗り、彼女を母と呼ぶが、彼女からすればどうみても別人。それを訴えるクリスティンは自らの怠慢による誤捜査を隠蔽しようとする腐敗し切ったロス警察に不信感と怒りを少しずつ募らせていく。そんな中、この事件は同時期にロス周辺で起きていた連続少年失踪事件と繋がりはじめ、そして、というお話。
事実に基づく話なのだそうだが、これはもう何だか物凄い展開というか何というか。でも、実に良く出来ている。猟奇殺人であるとか、法廷劇であるとか、アンジェリーナ・ジョリーの出世作である『17歳のカルテ』のような精神病院もの等々といった色々な要素が散りばめられているにもかかわらず、それでもなお、決して散漫にならずに、基本的にはクリスティンを中心としたドラマとしての一貫性が保たれているし、何ともうまい具合なバランスでまとめ上げられている。その辺りにイーストウッドや脚本のJ.マイケル・ストラジンスキ(J. Michael Straczynski)をはじめとする制作スタッフの見事なプロダクション能力を感じたのである。
ストーリィ展開も物凄いのだが、アカデミー賞ノミネートのアンジェリーナ・ジョリーはそれはそれは凄まじい演技をみせているし、脇役の二人、クリスティンの敵であるロス警察の本部長デイヴィス(コルム・フィオール=Colm Feore)と、彼女の味方につく反権力的な長老派牧師ブリーグレブ(ジョン・マルコヴィッチ=John Malkovich)も非常に良い。もう一つ大事なことを付け加えておくと、これまで暗澹とした作品群を世に送り出し続けてきたイーストウッドがこれだけ前向きな作品を作ったというのは、かなり画期的なことなのではないかと思う。全体のトーンも基本的に明るい、あるいは力強いのだ。理不尽なものへの静かな怒りを、ブレのない視点、明確な意志をもって描ききった傑作である。以上。(2009/04/29)