庵野秀明総監督作品 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
1995-1996年にかけてTV放送され、その後のアニメーションのみならずコミックや文学などにもに多大な影響を与えた『新世紀エヴァンゲリオン』の完全リメイク第2弾である。第1弾『序』ではかなりの部分TV版の原画をそのまま使っているし、話自体もさほど変化がなかったのだが、この第2弾は全く違う。もうこれは、リメイクなどではなく全く新しい作品ではないかとすら思えるたたずまいを持つ作品で、更には、これ一本自体が庵野氏の代表作、と言い得るような大変な作品に仕上がっている。
「惣流」から「式波」へと名前の一部が変わったアスカの登場、空中から落下してくる第8の使徒(TV版では第10使徒)をシンジ・アスカ・レイの共同作戦で撃退するエピソード、第9の使徒(TV版では第13使徒)に乗っ取られた3号機をダミープラグ・システムで排除するエピソード、ほぼ最強の使徒(第10の使徒:TV版では第14使徒)の来襲と初号機の覚醒、といった一連の流れはTV版と共通なのだが、兎に角変更点、新たな追加点が多い。
細かい点についてはご自身でお調べ頂きたいのだが、最も重要なのは坂本真綾が声を担当する真希波・マリ・イラストリアスというキャラクタの追加、である。「メガネっ娘にして巨乳にしてオヤジ系」、という今日では余りにも有り触れすぎたキャラなのだが(明らかにそこを狙っているのではあるが…)、この人物の追加により、間違いなく作品に新たなトーンやらテンションやらが加わったのは紛れもない事実。アダムにイヴにリリスに天使だから、ここでの「マリア」の登場はもの凄く重要、でもある。ついでながらこの人物、ごくごく個人的には『ひぐらしのなく頃に』における「羽入」なんだと勝手に考えている。なので、最後に意味深な台詞を吐くカヲルは必然的に古手梨花の立ち位置にいることになる。あくまでも私の頭の中での話だが。
話を戻して、もう一つ重要なのはこの『破』が基本的にラヴ・ストーリィとして構成されている点であろう。『破』においては、話の基調にTV版ではさして発展することもなく終わったシンジとヒロインの恋があり、そこに人類の存亡をかけた壮大なドラマが絡む、という構図なため、非常にまとまりのある、そしてまた感動的な作品に仕上がっているのだ。そしてシンジは、このことによりTV版とは異なるキャラへと変化を遂げているのである。そのような流れの中で発せられる最後の台詞なんかは、アニメーション史に残るものとなるであろう。
やや蛇足めくが、この作品には、『帰ってきたウルトラマン』において「MATビハイクル」として使われていたマツダ・コスモスポーツがミサトの愛車として登場したり、同じくミサトの携帯電話に科学特捜隊の電話着信音が実装されていたり、エヴァの動きにはウルトラマンっぽい躍動感が加わるなど、ウルトラマン・シリーズへのオマージュとも受け取れる面が多々あるのだが、その辺りのところに関しては大阪芸大時代の庵野氏が登場する島本和彦の漫画『アオイホノオ』をお読みになると多少は知見が得られるのではないかと思う。
さてさて、いまのところ全部で4部作になるとされているこの新劇場版だけれど、これを見る限り、そしてまた本編上映後の予告編を見る限り、ここから先はTV版とは全く違う話になることが予想される。だからこそ『ひぐらし…』を想起せざるを得ないのだが、その辺りのことはやがて明らかになるだろう。以上。(2009/09/07)