渡辺雅子著『現代日本新宗教論 入信過程と自己形成の視点から』御茶の水書房、2007.03

宗教社会学者である渡辺雅子氏による論文集である。1970年代から最近に至るまでの、様々な教団における綿密な調査を踏まえた既出の論文群に、加筆修正を施す形で成り立っているのだが、全体としては副題にある通り「入信過程と自己形成」に着目しつつ、より〈個人〉に重きを置いた記述・分析が基調となっているのが特徴である。以下、その構成に従ってまとめてみる。
第I部「新宗教への入信」では、まず最初に立正佼成会のある地方教会でのアンケート調査に基づく、「重要な他者」をキー・タームとした対人関係の在り方を中心に分析した著名な論文を掲げた後に、続く二つの論文では大本、天照皇大神宮教をそれぞれ取り上げながら、前者ではライフ・ヒストリーを、後者では機関誌を素材として入信プロセスに関わる様々な要因=信者自身のライフ・コース、あるいは教義や教祖のカリスマ性等々を抽出し分析している。
続く第II部「新宗教と女性の自己形成」では、十五年戦争時における霊友会の会報を素材として、そこに掲載された女性達の手によるテクストから、女性達の「銃後」での戦争参加や「母」役割イデオロギーの浸透に教団やその担い手がどのように関わったのかを考察している他、妙智会という「分派教団」における女性教祖創出と、金光教における「修行生」の自己形成や教団内での生活を、ジェンダー=社会学的性差を念頭に置きながら分析を加えている。
最後の第III部では、浜松市にある自生会という集団について、その民間巫女にカテゴライズできる指導者自身の自己形成から、集団の形成過程その他を丹念に記述し、分析している。実は、個人的にはこの第III部が最も興味深いものだったのであり、私自身が東北日本などで見てきたそうした民間巫女的な人物を中心とした教団ないしコミュニティというものを、ここに提示された事例やそれについての分析などを参照しつつ更に掘り下げる必要があることを痛感した次第である。
以上、ごく大まかに内容をまとめてみたのだが、言い尽くせていない部分が多々あるのも事実である。その点についてはご寛恕戴く他ないのだけれど、本書をワン・フレーズでまとめるなら、基本的にミクロな視点への志向性を持つ宗教社会学の一つの形が示されたもの、と考えておきたいと思う。確かに記述・分析法が各部・各章で著しく異なっており、それがために本書で取り上げられた実に多彩な各教団・宗教集団等同士の比較、あるいはそれによって抽出されるはずの共通点や相違点の分析、そしてまたそこからのより一般的な議論への発展、というようなことを行ない得ていない点が残念なのであるが、それはそれとして、読み手としては本書をあくまでも論文集として捉え、個々の論文をいかに活用するか、ということを第一に考えるべきであろうと思う。(2007/07/08)