Oliver Hirschbiegel監督作品 『ヒトラー最期の12日間』 2006.01(2004)
原題はDer Untergang。日本語だと「没落・滅亡・破滅」といった意味。邦題はとても分かりやすいもので、映画の中身をほとんどそのまま表現しているのだけれど、要するに独裁者アドルフ・ヒトラーの、1945年4月20日の56歳の誕生日から、30日の自殺に至るまでとその後数日を、とても丁寧に描いた作品である。となると、「最期の11日間じゃないの?」という疑問がわいてしまうのだが、まあ、目をつぶろう。
本当に丁寧な造りの映画で、セットといい、人物描写といい、実に良く出来ている。中でも主役のブルーノ・ガンツ(Bruno Ganz)の神がかり的な演技は誠に見事なもので、かなりエキセントリックだったといわれるあのもはや神話的な人物を、その卓越した演技力によって21世紀に召還し得ていると思う。
この作品、崩壊する第三帝国の最終段階を描くことに主眼があるため、彼らの行なった虐殺行為その他について「本編」では殆ど触れられることはない。そこがまたこの映画の面白いところで、要するに一般のドイツ国民は、ナチの情報操作によりあの虐殺について全く知らされていなかった、ということが最後になってやや付け足しめいた形でヒトラーの秘書本人の口から語られることとなる。この辺り、色々な意味でなかなかに巧みな構成である。
ちなみにこの映画の語り手と言って良い秘書=T.ユンゲさんというのは実はとても有名な人で、詳しくはwikipediaのこの人のページを見て欲しいのだが、晩年のインタヴュウを収録したドキュメンタリ・フィルムIm toten Winkelまで作られている。日本語版は出ていないのかも知れないが(ドイツ語版で英語字幕だろう。辛いものが…)、これを併せて見ると第三帝国システムの最終段階についての理解がより深まるのではないか、と思う。以上。(2006/06/12)