Martin Scorsese監督作品 『ヒューゴの不思議な発明』
大巨匠と言える大御所マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督の新作はなんと3D制作。そして、これまでのヴァイオレンスフルな作風とは打って変わってのちょっぴりSFっぽいアドヴェンチャーにして心温まるヒューマン・ドラマ。原題はHugo。非常に良い出来映えなため、本年のアカデミー賞では11部門にノミネートされて、美術賞や撮影賞、あるいは音声、視覚効果といった技術っぽい5部門を受賞している。扱われているテーマがテーマだけに、極めて正しい気もするが、ドラマとしての出来も素晴らしい。
時は1930年代。場所はパリ。ターミナル駅を住まいとする少年ヒューゴ(Asa Butterfield)は、酒飲みのオジがほったらかしている時計のメンテナンスをする傍ら、時計職人だった父(Jude Law)が形見として遺した、動かなくなってしまった不思議な機械仕掛けの人形を何とか修繕しようと努力に努力を重ねていた。そんなある日、やはり父が遺した修繕メモを、オモチャ屋の老人(Ben Kingsley)に取り上げられてしまったヒューゴは、それを取り返しに老人宅に出向き、読書好きの少女イザベル(Chloö Grace Moretz)に出会う。こうして、機械人形の謎を巡っての、二人の大冒険が始まるのだった。
別にネタバレじゃないので書いてしまうけれどオモチャ屋の老人の名はジョルジュ・メリエス(Georges Jean Méliès)。なので、基本的にこの映画はボーイ・ミーツ・ガールなアドヴェンチャー映画であると同時に、映画のための映画であり、映画についての映画でもある、ということになる。
実在した偉大な映像作家メリエスについての基本的な情報はWikipediaの英語版かフランス語版に詳しいので是非見て欲しいのだが、この映画はメリエスについての実話と脚色を上手い具合に織り交ぜつつ、更にはそれだけではなくて少年少女が駅構内で繰り広げるアドヴェンチャーをも見事な形とバランスで接続して、実に外連味たっぷりの、そしてまた感動的なドラマに仕立てていると思う。原作はブライアン・セルズニック(Brian Selznick)が書いた2007年刊行のThe Invention of Hugo Cabretなんだけれど、それ自体が非常に優れた作品なのだろう。
全体を覆うジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)映画っぽいテイストの美術と衣装と音楽やら、イザベルの台詞にも出てくるチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)的世界観やらといったところにもスコセッシ監督一流のこだわりが垣間見える。映画作りへの情熱冷めやらぬ巨匠による、次代に遺す、という強烈な意志を感じずにはいられない驚異的な傑作である。(2012/03/15)