David Lynch監督作品 Inland Empire
梅田の何だかスゴイ建物に入っている映画館=梅田ガーデンシネマで観てからかれこれ2週間経ってしまったのだが、それもこれも日常が余りにも忙しいがため。そして、そうこうしているうちにこの映画の上映場所もボチボチ増えてきている模様。しかし、例えば一番便利な名古屋で観られるのはもう少し先のことではないかと思われるのだが、それは措くとして、と。
さてさて、この作品は、「中期デイヴィッド・リンチ(David Lynch)映画」の2作品に出演していたなんだかんだ言ってもやはり大物女優であるローラ・ダーン(Laura Dern)を久々に登場させた、昨年還暦を迎えた同監督の長編映画としては実に5年振りとなる、ある意味集大成的な構成とテーマとプロットを持った、そしてまたこの稀代のカルト映画作家にしか作り得ない映画である。
ちなみに、私がこの欄で勝手に「中期リンチ作品」と名付けているのは1980年代後半から1990年代前半辺りの同監督による作品群で、要は1990-1991年のTVシリーズであるTwin Peaksの前後、と考えて頂ければよい。私はと言えば、個人的には初期のモノトーン長編2作品が好きなのだが、この中期というのはある意味「リンチ映画」とでもいうべき作風を完成させたとても重要な時期にあたっていて、その時期の代表作Blue VelvetWild at Heartに出演していたローラ・ダーンの起用というのは、リンチ映画を知るものには何かを予感させずにはおかない一種の事件ですらあるのである。
さてさて、この映画、リンチ映画の代名詞的存在であるローラ・ダーンの起用がそもそも暗示しているように、「そう来たか」、という感じでリンチ自身のキャリアに関する事柄について婉曲的かつ何とも込み入った仕方で語る、という端的にメタ・フィクショナルな構造を持つ映画となっている。例によってシンボリックな表現を多用した不可解ないし一見するところでは意味不明なシーンが幾層にも重なった途方もない複雑さを持つ映画なのだが、さりとてその基本プロット自体はそれほど難解なものではないのも事実。更には、ある場面などは結構怖かったりするし、反対に笑いどころや泣かせどころまであったりと、一種のハリウッド映画的カタルシス効果をさりげなく、そしてやや茶化し気味に醸し出している所などは、この映画作家の辿り着いた新たな境地ではないかとも考えたのだった。ちなみに、この人の創る映画は毎度のことながら一度では理解しにくいわけで、いずれは特典たっぷりなはずのDVDでじっくり観てみたい気もする。
以下殆ど蛇足に近くなる。タイトルの「インランド・エンパイア」=「内なる帝国」というのは、どうやら脳内環境だとかヴァーチュアル空間だとかそんなようなものなのだという説明がとある男の台詞の中に出てきたように思うのだが、頻出するポーランドのシーンを観ているとかの国でロケを行なった押井守のヴァーチュアル空間もの実写映画『アヴァロン』を思い出してしまったりもした。そう言えばあの映画のプロットは、この映画にやや似ているようにも思われる。それを言ってしまうとなのだが、押井とリンチの作風はそもそも結構近いようにさえ思っている。それはそれとして面白いのだが、実は、この映画では「ポーランド」という要素がかなり大きな比重を占めていて、中でも多用されまくっている同国の作曲家ペンデレツキ(Krzysztof Penderecki)の音楽が物凄く耳というか頭に残った次第。ちょいとCDなどが欲しくなってしまったのだった。良い演奏を知っている方は教えてください。以上。(2007/08/07)