Todd Phillips監督作品 『Joker』
タイトルでおおよそ分かるようにDCコミックスの「バットマン」シリーズからのスピンオフ作品。とは言え、本作はアクション映画では全くなく、また、「バットマン」シリーズの「ジョーカー」とは一線を画したオリジナルのジョーカーを主人公に据えた、極めてシリアスな内容を持つ重厚な人間ドラマである。
さて、タイトル・ロールのジョーカーを演じるのは数々の名作に出演してきたホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)。その見事な演技は鳥肌ものなのだが、脚本や演出、あるいは美術や音響といったあらゆる面で非常に高い質を備えた作品で、公開に先立ち、ヴェネツィア国際映画祭では見事金獅子賞に輝いている。
時は1981年。ゴッサムシティで母と共に暮らすアーサー・フレックは、ピエロ姿のアルバイトで生計を立てていた。上司とは折り合えず、突然笑い出してしまう病気に苛まれ、街の不良少年には絡まれ暴行を受けるなどといった具合の悲惨な毎日。
そんな彼に転機が訪れる。同僚から借り受けたピストルで、乗り合わせた地下鉄内で、女性に絡んでたスーツ姿の若者たちを射殺してしまったのだ。とっさにとった自らの行動に戸惑う彼だったが、市民たちは謎の人物による勇気ある行動、と喝さいを上げる。こうして、稀代のアンチ・ヒーロー、ジョーカーの暗躍が始まった。
1980年代が舞台とはいえ、扱っているのは今日において一層厳しさを増している感のある格差や分断、そしてまたデマゴギーといったもの。諸悪の根っこに貧困がある、なんていう単純化は行なわず、もっと複雑化したところをあくまでも複雑なままに、そしてうまく掬い取っている辺りが、この作品が高く評価された最大の理由になるのだろう。近年まれにみる見事な作品だと思う。以上。(2019/10/25)