有栖川有栖著『女王国の城』東京創元社、2007.09

創元クライム・クラブの一冊にして、同著者による「江神二郎」シリーズの第4長編となる作品である。第3作『双頭の悪魔』の刊行から実時間では15年経過しているけれど、登場人物達はそのまま1990年頃の世界を生きている。
今回おなじみ英都大学推理小説研究会のメンバが遭遇する事件の舞台は、木曾山中は御嶽山の麓あたりに設定されている神倉という村にある宗教団体〈人類協会〉の本拠地。メンバには何も告げずに同地に赴いたと思われる同会の部長・江神を追う有栖川有栖等一行が遭遇する、21歳の若き女性代表がある意味「女王」として君臨する「城」の如き威容を誇る宗教施設群で起こる連続殺人事件を中心に物語は進行する。
この人の作品は基本的にエラリー・クイーンが確立したスタイルを踏襲しているのは周知のことだけれど、それはこの本にも言えること。推理に必要なデータが出揃った段階で読者への挑戦状が示され、読者はしばし熟考することになる。いつものことながら良く練られたプロット、巧みに張り巡らされた伏線、適度なミス・リーディング等々、全てが完全無欠とも言えるほどの高い完成度を持って組み立てられた見事な本格ミステリ作品に仕上がっていて、ここ数年のベストに挙げられるのではないか、と考えた次第である。
余談めくが、宗教とその周辺事象についての研究をしている関係上新宗教なども扱っているわけだけれど、そんなこともあってバブル期に急成長を遂げた、ということになっている〈人類協会〉の描かれ方をとても興味深く読んだ。御嶽山と関係が深い託宣・予言を基調とするシャマニスティックな呪的カリスマを創始者とし、その後天才的ないしはそこまではいかずとも有能な組織運営者によって教勢が急拡大する、というのは実のところ良くあるパターンなのであり、必ずしも著者の言葉通り「モデルがない」わけではない。要は、〈人類協会〉の設定のどの辺がどの教団の何々のようで、というような分析を思わずしてしまうのが研究者の性(さが)なのである。
最後になるけれど、あとがきによるとどうやら残すところ第5長編と幾つかの短編集で完結するらしいこのシリーズ、次回作の刊行を心待ちにしたいと思う。下手をすると15年以上先になるかも知れないけれど…。以上。(2008/04/20)