Ridley Scott監督作品 Kingdom of Heaven 2005.10(2005)

巨匠リドリー・スコット監督が、目下売り出し中のオルランド・ブルーム( Orlando Bloom )とベルナルド・ベルトルッチ( Bernardo Bertolucci )の近作(未見。これはまずい、と思ったのだが…)に出演していた今後の活躍が期待されるエヴァ・グリーン( Eva Green )等豪華な顔ぶれの役者陣を起用して作り上げた史劇大作。十字軍が一時的に支配下においていたエルサレムを舞台に、基本的にキリスト教徒であるヨーロッパ人とムスリム勢力との争いを極めて今日的な視点で描く。
巨匠らしい恐ろしく精密な造りの映画で、大半がセットであるはずのエルサレムの映像には目を瞠(みは)らせられた。ところで、そういうことも映画の要素としては大事ではあることは確かなのだけれど、ここで述べておきたいのは、本作品において実に興味深いのはオルランド・ブルームが演じる主人公やリーアム・ニーソン( Liam Neeson )が演じるその父、あるいは彼等が仕えるエドワード・ノートン( Edward Norton )が演じるところの王といった人々が、エルサレムという場所を、様々な思想や端的にいえば宗教を持つ者たちが自由に行き交うことの出来る空間にしようと努力している、というこの映画で描かれる物語の基本設定である。
こういう考え方を持った人たちが本当にいたのかどうかは定かではないし、いたとしても歴史の表舞台にはほとんど現われていないわけだけれど、上述した通りこの映画の製作意図というのは、実のところ解決不能と言われるパレスティナ問題の淵源に遡りつつ、今の在り方へのアンティ・テーゼを示すことなのだと思う。
奇しくも、周知の通りイスラエル共和国のシャロン首相が脳出血で倒れるという出来事が起きたのだけれど、それと相前後して観ていたこの映画は、ヨーロッパ側が送り込んだエルサレム王の「らい病」による死を描いている。政治家としてはシャロン首相とは全く正反対の立場をとる、その病貌を隠すために終始仮面を着けたエルサレム王のイメージというのは、偶然生じた上記の出来事と重なり合って、実に強烈な印象を私に与えたのであった。以上。(2006/01/11)