Craig Gillespie監督作品 『ラースと、その彼女』
原題はLars and the Real Girl。第80回アカデミー賞で脚本賞に、第65回ゴールデングローブ賞で主演男優賞にそれぞれノミネートという評価を得たコメディ。監督は今回が実質的なデビュウ作となるクレイグ・ギレスピー(Craig Gillespie)で、主役の見るからに北欧系の青年であるラース・リンドシュトロムを演じるのはライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)。
話自体はシンプルなものだが非常に深い。「MR.サンシャイン」と呼ばれ彼が住む村の誰からも愛されている青年ラースは極端にシャイ。20代後半にしてこれまで特に彼女が出来たこともなく、兄夫婦を含む周囲から心配されている。そんなラースの「彼女」となったのは、なんとネットで購入した等身大のリアル・ドール。あくまでも人間の女性としてドール=ビアンカと接するラースを、村の人々は初めのうちは驚いていたものの次第に受け入れ、温かく見守り始め、やがて、というお話。
ハート・ウォーミングで、それでいて現代における若者の悩みみたいなものがうまく描けていて、良いところをついてくるな、と思った次第。演出や脚本、そしてまたゴズリングの名演技振りなどもかなり良い味を出している。カップルで、あるいは悩める若者が一人で観に行くのも悪くないんじゃないかと思う良作である。
ところで、この物語が示すものは基本的に一人の青年がその苦しみを乗り越える自己セラピーなのだけれど、それは同時に社会との関係を再構築するプロセスでもある。都会におけるような、孤立して引きこもって更に悪化、ということが起こりにくいだろう、基本的に温かいルーラル(田舎)なコミュニティの再評価、というようなことも行なわれていて、社会学的・社会心理学的な分析に耐える内容、と考えた次第。
やや蛇足。日本製のコミック・アニメ作品である『ローゼンメイデン』では、登校拒否・引きこもりの少年のもとにあたかも人のように動き喋るビスクドール達がやってきて住みつく、というシチュエーションが描かれるのだが、この2作、要は社会的な適応力を欠くか失った人間が、人ではないけれど人に近いものを介して社会性を取り戻していく、というプロセスを描いている、という点では共通している。今日における日米文化・社会の共通点、相違点を掴むための一助として、併せてお読み、あるいは鑑賞されることをお薦めする。以上。(2009/01/18)