大塚英志(原作)・衣谷遊(絵)『リヴァイアサン 1-12』角川メディア・ワークス、1999.11-2005.11
本書はT.ホッブズの、ではなくて、評論家にして漫画原作者として知られる大塚英志が原作を、中身は良く知らない『AMONデビルマン黙示録』という作品の絵を書いている衣谷遊(きぬたにゆう。ちなみに、性別が分かりません。)が作画を担当したコミック。世紀末の1999年から今年にかけて『電撃コミック・ガオ!』に連載され、このたび完結を迎えた。
要約するのがとても難しいのだが大体の概要を示すと、時は結局終末を迎えずに到来した新千年紀初頭。世界遺産にもなっているトルコ共和国はギョレメへ調査に行ったまま消息を絶っていた三溝耕平(さみぞこうへい)が、5人の体を継ぎはぎにした「終末を告げる獣=リヴァイアサン」として魔都と化した東京に帰還。でもって、「心霊クリニック」を開いた三溝及びそのかつての恋人であるらしい福山さつき、三溝に寄り添う謎の少女・飯田あかね等々の面々は、東京に集結した様々な勢力間の戦いに巻き込まれることとなり、やがて物語は東京を舞台とする「最終戦争」へ、という次第。
概ねこんな感じなのだけれど、詳しくは中身を実際に見て頂きたい。基本的にキャラクタ指向の作品を数多く掲載している上記雑誌の中では明らかに浮いた、どちらかと言えば世界構成やストーリー展開を重視した作品となっていると思う。(ちなみに、キャラクタ指向とストーリー指向に関しては、別段どちらが正しい、というものでもない。)人類学・宗教学・民俗学・神話学等々の知識を縦横無尽に駆使した、基本的にオカルト的或いはスプラッタ・ホラー的色彩の濃いエンターテインメント作品ではあるのだけれど、移民・難民問題や臓器移植などなどといった今日的な話題に加え、連載中に同時進行した911テロからイラクへの軍事行動へと続く国際情勢も加味したかなり政治色の濃い作品であることも事実である。
なお、最後の辺りはそっち、つまりはイラク戦争に引っ掛けすぎて、衝撃的というよりは「笑撃的」な方に傾いてしまっているように感じたのだが、まあ、その辺はご愛嬌だろう。そうそう、この作品の終わり近くで描かれた、つい先ごろ起こったアメリカ合州国などによるイラク侵攻の「真相」についての一解釈は、なかなか笑えるものである。以上。(2005/12/17)