山田洋次監督作品 『母と暮らせば』
昨年暮れに公開された、山田洋次監督、二宮和也・吉永小百合主演、坂本龍一音楽による長編映画である。先に行なわれた日本アカデミー賞では11部門にノミネートされ、主演男優賞、助演女優賞(黒木華)の2部門を受賞している。基本的には井上ひさしによる戯曲『父と暮らせば』と対になる物語で、『父と…』が広島を舞台にするのに対し、こちらは長崎を舞台とする。ちなみに、脚本は井上ではなく、山田洋次・平松恵美子によるものである。
終戦間近の長崎。医学部生の福原浩二(二宮)はアメリカが行なった原子爆弾投下によりその命を落とす。それから3年。助産婦をする一人暮らしの母・伸子のもとに、浩二の幽霊が現れる。母と子の、奇妙な共同生活がこうして始まるが、やがて、…というお話。
山田監督の脚本やきめの細かい演出、二宮と吉永、あるいはまた新鋭・黒木華の卓越した演技っぷり、坂本龍一の格調高い音楽などなど、まことに日本映画の粋、とも言いうるような作品に仕上がっていると思う。
原爆投下から70年。あの忌まわしい災厄の記憶が次第に風化しつつある中で、こうした物語が紡がれることには、大きな意味があると考える次第である。以上。(2016/04/15)